SHORT NOVEL
□惚れた方の、負け
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「はぁ。」
「きっと可愛らしい恋人さんなのでしょうねぇ。今年のダイヤモンドは普通のブリリアンカットよりハートやファンシーなシェイプカットを細かく装飾したゴージャスなリングをお求め頂いてますね。」
「ほう。」
クラークは見せ場だとばかりに爽やかに話す。
「豪華さや華やかさはこのようなリングが1番ハデで、まぁその辺りが今の女の子に人気なんだと思いますが、プラチナをベースとしたシンプルなリングも逆にダイヤの魅力が光っていて、好評を頂いております。」
シルクの手袋に包まれた指先がショーケースからリングを大切そうに持ち上げた。イザークはその銀のリングをしばし見つめた後、自分より背が低いことによって自分を見上げる形になっているクラークの顔をまじまじと見た。
目の前に緑の瞳がある。その隣に銀のリングがあって、その緑くんは何故かイザークをじぃっと見ていて、何か言いたそうにそれをうるうると揺らしている。
緑と青が交わって、しばしの沈黙。
「・・・・・・いや、それは止めておく。」
ポツリとイザークが言って緑から目をそらす。その時にちらりと見た彼の顔は、あからさまに意に満たない表情をしていた。
「俺の恋人は少々強情でな。負けず嫌いだが肝心な所で少しヌケていて、まぁそこが可愛いのだが、そいつはかなり色が白くてそれはもう雪の様でな、だからそのリングではそいつの肌より見劣ってしまう。」
そうベタすぎる事を一息で言い再度クラークの顔を伺うが、彼の緑の瞳は未だ不服そうにイザークを見ていた。
「お客様だって綺麗な肌ではありませんか。これよりもっと綺麗なのですか?」
口調は刺々しいが、敬語は基本。
「あぁ、綺麗でもっと美しい。たとえば・・・・この手の様な。」
すらりと伸びた手が取ったのはクラークの白い手。尤も、その白さは手袋をしているからであって、結局イザークには相手の肌などわからないのだが。
自分の手をいきなり取ってにやりと笑う客にクラークは呆れた顔をしながらも幾分か楽しそうにイザークを見た。
「・・・では、このような指にはどのようなリングが似合うでしょうか。」
「そうだな・・・・これの方が似合うだろう。」
ショーケースを見渡し、そして指差したのは、赤みのある黒いベースでトップにダイヤをまぶしてあるリングだった。
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