Magic Law
□‡真実の扉U‡〜疑惑〜
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ムヒョに続いてロージーも車に乗り込んだのを確認したのち、柏倉氏は「もしものときのために準備しておきたいものがあるので先に別荘へ向かってほしい」とそれだけ告げるとベンツでどこかへ行ってしまった。
「なんだろう?もしもって……」
ロージーのそんな問い掛けに答えるはずのムヒョは、熱のためか、あるいはロールスロイス特注シートの心地よさからかすでに眠りの淵に立ち、舟を漕いでいた。
「……どうせまた金がらみの裏取引かなんかだろう」
「………えっ」
ムヒョにしては声が低い。
そもそも今、ムヒョはロージーの隣で寝息をたてはじつめいるハズ。
声の主は…そう、
「おっと、失礼。……ドア閉めるぞ」
「あ、は、はいっ」
先程二人を丁寧に迎えてくれた運転手その人であった。
…第一印象と実際の彼とではかなりイメージの差があるらしい。
先程の馬鹿丁寧な高級車専属運転手はもういない。そこにいるのは只の、ほんの少し擦れ気味の若い青年だった。
彼はドアを閉めると、乗用車よりも遥かに大きいこの車のまわりをぐるりと一周して運転席へ乗り込んできた。
「悪いな、社長がいなくなったからには素で対応させてもらうぞ。正直、堅っ苦しいの嫌いなんだ」
「は、はぁ」
すっかり圧倒されっぱなしのロージーであったが、すぐに覚醒すると、どうにも先程の言葉が気に掛かる。
「あの…お金がらみの裏取引って……?」
「あぁ、」
エンジンをかけ、車を発進させながら語りはじめる。
「うちの社長、世間では経営者の鏡だの紳士だのと持て囃されてるけれど、実際裏ではかなり顔きく方でな。色々やんちゃやってるらしいんだよ」
「やんちゃ?」
「噂では薬の密売やら臓器売買やら…。はたまた暴力団の親玉とつるんで闇金やってるとか。確かなところでも不正、賭博、ばれそうになったら賄賂、脅しは当たり前。自分の利益になるものはとことん買収して、不利益だったり反抗的だったりすると直ぐ様裏方に手を回し排除する…」
片手運転でタバコに手をのばしながら、淡々と続ける。
「……まあいつものことさ」
それにカーライターで点火する。
まるで当たり前、だとでも言うようなその言動に、暫しの間再びロージーの思考回路は止まる。
…なんだか今、この人さらっとすごいことを言ってのけたような…。
─ようやくロージーがことの重大さを認識したのは、それから数十秒後のことである。
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