●学校であった怖い話●

□エイプリルフール
1ページ/2ページ






年に一度の嘘が許される日に―



―貴方の気を惹くためについた嘘





イプリルフール





「私…彼氏出来ちゃいました」




『…え?』




「だからね。もうこうやって荒井先輩と帰るのも最後だと思います」










鳴神学園からの下校途中、私は急にそう切り出した。

私は最近、毎日荒井先輩と一緒に帰っている。鳴神学園の周辺では何故か事件が多く物騒だからと送ってくれたのが始まりでそれから家の方向が同じと言う事もあり、何と無く待ち合わせをして一緒に帰る様になった。


私はこの荒井先輩との帰り道が好きだ。だから最後にする気なんてなかったけど、荒井先輩の反応が見たくてつい変な嘘をついてしまった。


今日はエイプリルフール、一年に一度嘘が許される日だから…








『そうですか…名無しさんに彼氏…』


呟く様にそう言ったきり荒井先輩は完全に俯いてしまって、彼の長い前髪で表情が分からない。





『…相手はどんな人なんですか?』




「えっと…優しいし頭も良くて凄くかっこいい人ですよ」


思い付く限り出任せを並べて取り繕うように笑ってみせるが、返事はない。



(少しわざとらし過ぎたかな…)





俯いたままの彼の表情を見る為、前髪の間から覗き込むととても寂しそうな目が見えた。




『おめでとうございます…と言いたい所ですが、どうやら僕は素直に祝福出来そうもないです。……なんで』




「なんで…?」





『なんで僕じゃだめなんですか…』








『自分で言うのもなんですが…僕だって名無しさんには優しくしているつもりですし、頭だって悪くは無い方だと思います。』








思わぬ反応に言葉を失ったまま彼に見る、彼は血が滲むほど強く拳を握って俯いたままだった。








『なんで僕じゃないんですかッ…!』









「嘘です…」







「今日はエイプリルフールだから…その…ごめんなさい!!」




これ以上嘘を付き続けるのは不味いと思い慌てて頭を下げる、荒井先輩はきょとんとして私を見ていた。






『なるほど…今日は4月1日ですか。すっかり忘れていました。でも…』




『いくらエイプリルフールでもそんな人を傷付ける嘘は関心しませんね』





私から顔を背けさっさと歩いていってしまう荒井先輩を手を掴んで止める


「ごめんなさい!私、荒井先輩がそんなに怒るなんて思わなくて…!」

頭を深く深く下げた後、顔をあげると顔を真っ赤にしている彼の顔が見えた。




『告白したも同然の台詞を言わされて…いくらエイプリルフールでも簡単には許しませんよ……順番はちょっとおかしくなってしまいましたが…さっきの嘘が現実になる前に言っておきます』


『好きです、名無しさん。きっと後悔はさせません。だから…僕と付き合って頂けませんか?』





前髪のから覗く先輩の瞳は見たことない位まっすぐで、カァーっと自分の顔が熱くなるのがわかる。

なにも言えずうつ向いていると少し悲しそうな声が聞こえた。



『やっぱり僕では駄目ですか…?』





「違…っ」




首を振って否定すると、掴んだままだった手が優しく握り返された。





『人を傷つけるような嘘を付いた罰です。明日からは帰り道、この手をずっと離さないで下さい。』



言ってて恥ずかしくなったのか先輩は手を握ったままくるりと前を向き歩き出す。




いつもと同じ帰り道だけど今日は何か別の世界のようで。





明日からの帰り道がとても素敵なものになる気がした。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ