四季の香

□冬
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【珈琲と紅茶】





まだ夢の中にいるのに

珈琲の香が

私を眠りから覚めさせる


おもむろにベッドから這い出ると

リビングの戸を開ける


イスに座って

煙草を吸いながら

お気に入りのコーヒーカップで

珈琲を飲んでいた


「今日は早いね」


そう言う彼は

いつも早起きで

仕事が休みの日でも

いつもと同じくらいの時間に起きる

そして

大好きな珈琲を飲んで

休みの日の朝を

のんびりと迎える


私は寝ぼけた頭で

ケトルに残ってるお湯に水を足し

コンロに載せて

火を点ける


ティーポットに茶葉を入れ

ティーカップを用意する


お湯が沸騰すると火を止め

高い位置にケトルを持ち上げ

勢い良く茶葉に当て

熱いお湯を注ぐ


タイマーで時間をセットし

ケトルの中の余ったお湯を

ティーカップに注ぎ

タイマーが鳴るまで待つ


「僕も飲みたい」

「いいよ」


ティーカップをもう一つ取り出し

残りのお湯を注ぐ


すぐにタイマーの煩い音が聞こえる

そのけたたましい音を止めて

一つのカップに入っているお湯を捨てると

ポットの紅茶を一口分だけ注ぐ


うん、美味しい


味を確認すると

もう一つのカップのお湯を捨て

適量を注ぐ

残りはもう一つのカップに注ぐ


「はい」

「ありがとう」


彼と向かい合うように

私もイスに座り

淹れたての紅茶を

そっと口に含む


口の中に広がる暖かさ

湯気と一緒に立ち上る香

紅茶の優しい香

私と彼を静かに包み込む



私は珈琲が飲めない。

昔は飲めたけど、大人になってからダメになってしまい、ひどい時には体調を悪くしてしまう。

原因はわからないまま。


彼は珈琲が大好き。

珈琲を極めようと、沢山の情報を集め、今では珈琲の資格を取ろうとしているほどだ。

紅茶よりも珈琲が好き。


そんな彼は、私の淹れる紅茶が好き。

だから私は、いつも美味しい紅茶を淹れてあげる。

そしていつも、美味しそうに飲んでくれる。

そんな彼の顔を見るのが好き。


寒い時期にはよく、躰を温めるように紅茶を淹れる。

この時期にぴったりなのが、シナモンの香がするフレーバーティーや、甘い蜂蜜の香のするフレーバーティーを淹れることが多い。

紅茶にも沢山の種類があって、私はその日の気分で、色んな味を楽しむ。

そして、一番美味しいタイミングに淹れた時の紅茶を彼にあげる。


それが珈琲の飲めない私の…せめてもの愛情。


「紅茶が飲みたい」

「どんなのがいい?」

「体が温まるの」


彼のリクエストに応えて、茶葉を選ぶ。

いつものように紅茶を淹れる。


私の淹れた紅茶を

幸せそうな顔をして飲む

それだけで私は

紅茶と一緒に身体も心も温かくなる


窓の外には

綺麗な月が

寒そうに

冷たい光を注ぐ


外は冬


彼と私の部屋は

いつも暖かく

躰も心も全てが

柔らかい暖かさに

包み込まれる




そんな冬の

暖かいお話






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