四季の香

□冬
3ページ/3ページ


【冬の懺悔】



今夜は冷え込むらしい

天気予報でそう言っていた


仕事から帰って来た彼は、冬の寒い空気を体中に纏っていて、リビングがひんやりとする。

彼の話では、私達の家から2時間程離れた仕事場で、夕方くらいに雪がちらついたようだった。

私はその話を聞いて、密かに嬉しくなっていた。


私の出身は北の方で、冬になると必ず雪が降っていた。

だから、冬に雪が降り積もるのは当たり前で、毎年雪が降る前になると、いつ降るかなぁ〜♪と胸を躍らせていた。




不意に静かになる

何気に窓を開ける

外ではちらちらと

雪が降っていた


音を立てずに

ふわりふわり

白い雪の精達は

天から地上へ

舞い降りてくる


その姿は

神の使いの天使が

汚く穢れた世界を

優しく包み込むよう

全てを覆い隠すように

自らの羽根を

降り積もらせるよう


その様が綺麗で

全身で感じたくなる

急いで外に出る

雪に覆われた地面に

仰向けになり

空を見上げる


薄灰色の厚い雲

ゆらりゆらり

真っ白な雪

舞い落ちる


耳が痛くなる程の静寂

優しく包まれる身体

ゆっくりと浮き上がる

空に引きずり込まれる

奇妙な錯覚に意識を離す


このまま埋め尽くして

誰にも気づかれないように

穢れた身体を覆い隠して

誰にも見つからないように

私はこの世から姿を消す

誰にも知られないままに




小さい頃の独り遊びだった。

あの頃から無意識のうちに、自分を消してしまいたかったのか、それとも、現実から逃げたかったのか、今となってはわからない。

ただ…そんな遊びをしていても、私は今でも元気に生きてるわけで、生も死もわからない子供独特の妄想世界での遊びだったんだと思う。

…そう……思う。




気づけば地元を離れてから、10年以上も経ってしまった。

そろそろ地元に帰らなくてはいけない。

都会で汚れて醜くなってしまった自分を浄化させる儀式。


『冬の懺悔』


私の身体は、永遠に近い程の永い時間、この儀式をしなくてはいけない。

それほど汚れてしまったから。



誰にも気づかれないように

誰にも見つからないように

誰にも知られないように

独り遊びを始めるんだ

大人の独り遊びを………



こんなことを考えてるなんて微塵も気づいてない彼は、今夜も私の作ったご飯を美味しそうに食べている。

その姿を見ていると、私の心が温かくなってきて、彼と一緒にいることに幸せを感じる。


早く一緒に…地元に帰ろうね


心の中で呟きながら、私もご飯を食べ始める。


何事も無かったかのように…

私の秘密を隠したまま…






前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ