月下美人の香
□遠い約束
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【つまらない学校】
そろそろ卒業後の進路を決める時期になった頃、早くから行動を起こしたクラスメイトは、すでに受験に向けて勉強を始めていた。
塾の特別コースに通う子
家庭教師を無理矢理つけられる子
受験とは無縁の就職組
やりたい事が見つからないまま遊んでる子
この時期のクラスは様々な空気が漂っていた。
私には選択肢がなく就職組。
親は「公務員か銀行員」と言うが、今更こんなレベルの低い学校から、人気の職種に就けるわけもない。
ましてやこのご時世、銀行員も落ち気味なのに、親は社会情勢を知らないのか、時代遅れに昔のイメージを押し付け、顔を合わせる度に言ってくる。
「あんたは何も取り柄が無いんだから、他の人よりも頑張らないと、就職浪人になるんだからね。そうならないように、人一倍頑張らないとダメよ!」
親は耳にたこができるくらいに私に言う。
片親で、ましてや自立もしたことがない親は、自分の理想世界で生きてる為、社会を知らない。
私は、歳の離れた姉が1人、母親、母方の祖父母と、物心のついた時から暮らしている。
父親の記憶は、ほとんど無い。
母親の過去に何があったか知らないが、自分の出来なかった事を子供に押し付けるのはどうかと思う。
そんな苛立ちがありながらも、遊びたくてバカ学校に入った自分もどうかと思うが。
それでも私は、女子人気ランク一位の事務職以外の職種を受け、学年で3番目に就職を決めた。
私は特にやりたい事も無かったから、初任給の高い会社を選んだ。
倍率が低いおかげで、すぐに採用の返事が来て、職員室前の廊下に用意されてる『進学・就職先決定者』の壁に名前が張り出された。
ほとんどのクラスメイトが進路先の決まらない中、唯一就職先の決まった私は、「おめでとう」の言葉に含まれる嫉妬心をぶつけられるようになった。
特に目立ついじめはないが、中学生の時とは違う無言の嫌がらせはあった。
そんな嫌がらせを他人にするよりも、その労力を受験や就職活動に向けた方が自分の為になるんじゃないの?と、クラスメイトを卑下た目で見てしまう。
元々私はクラスでも孤立していたし、同じ学校のくだらない友達よりも、他校の面白い友達と遊んでいたから、何をされてもたいしたことは無かった。
平日はファミレスでバイトをして、その給料で週末は朝まで遊ぶ。
そんな生活をしていても、何も文句を言わない親には、ある意味感謝をしていた。