蝶の檻

□箱庭聖女
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瞳を閉じたその先に映るのは、いつも同じだった――。


自分だけが知る、
唯一の世界の中に佇む人影。


眩い陽の光よりも優しく、金剛石(ダイヤモンド)よりもなお燦然たる輝きを放つ―――眩い、ヒト。


夢か現か、その場所も時も何もかもがあやふやなのに、あの輝きだけは鮮烈に刻まれている。

それは、自分に与えられた輝石のようで。


――けれど、
そのヒトの輝きが眩過ぎて……逆光に陰るその顔(かんばせ)はいつも伺えない。



――貴方は、一体……?



問い掛ける唇は、音を成さず動くだけ。
せめてもの思いで、恐る恐る手を伸ばして――……。









「――…め、さん。……絢芽(アヤメ)さん。起きて下さい」

「……ん…。……ぅん…?」


ゆらゆらと身体を揺さぶられる感覚。
朝靄がすぅ……と引いていくように、眠りの淵に落ちていた意識が目覚め始める。

鈍い動きで手を動かし、瞼の上からごしごし目を擦った。


「そんな風に擦っては目が痛んでしまいますよ? ほら、起きてお顔を洗って」

「……う、んー……」


頬に当たる朝の日差しは柔らか。
囀る小鳥も春の音を奏でている。

爽やかな寝覚めには似合いの朝だ。

未だ微睡みを引き摺りながら漸(ようよ)う身体を起して、絢芽は重い瞼を持ち上げた。


「……おは、よぅ…?」

「はい。おはようございます、絢芽さん。ちゃんと起きていますか?」

「……ん、…大丈夫……です」


まだふらりと揺れる頭でこっくりとうなずく様を見て、クスリと笑うのは絢芽と同室のクラスメートである芙月(フヅキ)。

寝ぐせでくしゃくしゃになっている絢芽の髪を、手櫛で直してやりながら、


「ほら。早くしないと、朝御飯に遅れてしまいますよ? 今朝のメニューは、絢芽さんの大好きな牛酪(バター)たっぷりの三日月パンに、野菜を包んだオムレツとですよ。 昨日の夜から明日が楽しみだって言ってたでしょう?」


芳ばしい香りがしそうな朝食のメニューを聞いて、それまで半分以上下がっていた絢芽の瞼がぱっと開いた。
月に2、3度朝食に出る三日月形のパンは、絢芽のお気に入りなのだ。


「……そうだった! 起してくれて有難うございます!」


弾かれたように寝台から飛び上がり、部屋にある洗面所へと向かう。
寝台の隣にある小さめのテーブルに置かれた時計をちらりと見れば、いつもの起床時間より15分も過ぎてしまっていた。


「いいえ、どういたしまして。慌て過ぎて、物にぶつかったりしちゃダメですよ?」

「気を付けます……っ!」


と返事をしながら、何も無い床で躓きかけて態勢を立て直す。

冷たい水で手早く顔を洗って、所々跳ねた癖っ毛を鏡と睨めっこしながら整えて。
上品な濃藍色の指定の制服に着替えて胸元のリボンを結ぶのに絢芽が手間取っていると、芙月が手を貸して綺麗に結んでくれた。


「有難うございます、芙月さん」

「良いんですよ、これくらい。さあ、食堂へ行きましょうか」

「はい!」




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