蝶の檻

□箱庭聖女
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溢れる光の中。

鮮やかな色彩に色付いた花々の甘やかな薫り。

暖かな日差しに包まれて、伸びやかに、美しく成長する花々は、この学園に集う少女達の姿を思わせた。
今は講義の最中だろうか、静けさばかりが辺りを包む。


校舎より少し離れた場所にある庭園を歩む一人の青年の姿。
その青年に、遠くから呼び掛ける声が響いた。


「こんな所に居たのか、急に姿を消すから驚いただろう」


声に気付いて、ゆるやかに青年の視線が声の主へと向けられる。


「――大げさな。少し庭を散歩していただけですよ」


あちらこちらと探し回ったのか。
息を切らせて駆け寄る人に、静かに返す青年は変わらぬ足取りで庭園を離れる。


「勘弁してくれ。お前の気まぐれに付き合わされる身にもなってみろ。毎回毎回どんな思いで……」

「勝手にそちらが付いて来ているだけでしょう? 頼んだ覚えは無い」


表情は変えずに、あくまで淡々と告げる。
青年を探しに来たというその人は、盛大な溜め息を吐きながらも、青年の少し後ろに控えて歩くのはいつもの事で。


「――で、こんな場所に探しものか?」


普段ではあまり無い、青年のやや上機嫌な雰囲気に相手は何か感付いたようだ。
表面上では分かり辛いが、これは彼の経験則とも言える。

尋ねられ、ふわりと形を変える青年の口許。


「探し物……というよりは、此処まで呼ばれたのかもしれないですね」

「呼ばれた? 誰に?」


辺りを見回してみるが、二人以外に人影は無い。

暖かな陽気に溢れる空の元、蜜の甘さを持つ花々の香りを孕んだ風が吹き抜ける。
その美しい花々も霞んでしまう程の麗しい容貌に、青年は柔らかな微笑みを湛えた。






「――可愛らしい、神に」





     




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