蝶の檻

□箱庭聖女
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長い冬の眠りを経て、新たな息吹に満ちる春。


皇都より北東の方向に位置する第伍帝華学院。

伸びやかに暮らせる、十分な広さを持つ学院は、いつもよりも華やいだ女生徒達の雰囲気に包まれていた。



絢芽と芙月、二人揃って部屋を出て食堂へと向かう。
朝食の時間帯は決まっており、廊下には同じく食堂へ向かう他の女生徒達の姿が見えた。

あちらこちらから弾んだ声が上がり、廊下に響いている。


「そういえば、今日はあの夢を見たんですか?」

「え?」


隣を歩く芙月に尋ねられて、絢芽は潤朱(うるみしゅ)色の大きな瞳を瞬かせた。


「そう、です……けど、何で分かったんですか?」

「絢芽さん、朝はいつもは決まった時間に起きるでしょう? 以前に何度か夢の話を聞かせて貰った時も、いつもより少しお寝坊されてましたから」


その度に、芙月に朝起して貰っているのを思い出して、絢芽は恥ずかしげに顔を俯かせた。


「…っ…いつもはたまたま同じ時間に目が覚めるだけです。でも、あの夢を見た時だけはどうしても……」


そうなのだ。

今朝も見た、あの夢を見た日だけは深く眠り過ぎてしまうのか中々起きられない。


「不思議な事もあるんですね。それもいつも同じ夢なんでしょう?」

「そうなんですよね……」


歩きながら、絢芽はあの夢を思い起こしていた。



覚えているのは小さな絢芽の身長よりも、見上げるほど高い長身のヒト。

顔は影になって分からないけれど、そのヒトの纏う光の美しさがとても印象的で。
けれど、抽象的な夢はいつも中途半端なところで途切れてしまうのだ。


始まりも終わりも、いつも一緒。


その夢が何なのか、どうして同じ夢ばかり見てしまうのか――考えても絢芽には分からないままだった。


「その夢……最初に見たのは、多分2年くらい前になるんですよね」

「そんなに前から?」


既に女生徒で賑わっている食堂に到着すると、朝食を取りにトレイを手にする。
朝食は、各自が好きな物を必要な分だけ取り分けるスタイル。

絢芽は、お目当ての三日月形のパンを白いお皿に三つも四つもと乗せながら言葉を続けた。


「夢を見始めた最初の頃から去年くらいまではそんなに見なかったのに、最近になってよく夢を見るようになってきてるんです」

「そう言えば……。先週も一度、私が絢芽さんを起しましたね」


瓶に入れられたジャムを掬おうと、伸ばした絢芽の手がピタリと止まる。


「……いつも起して貰って…すみません……」

「あ、ごめんなさい。そんな意味じゃ無いんですよ?」


気にしないで下さいね、とフォローを入れる芙月は、さりげなく絢芽の好物をトレイに乗せてやる。

トレイに好きなだけ食事を乗せ、二人は日当たりの良いテーブルを探して席に着いた。




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