藤井秀一郎総受小説

□自慢のカレシ
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 それからの一時間の長い事!バックヤードを片付けたり、売場清掃したり、バイトの女の子にイラストを描いて貰いながらポップを作ったり…あらゆる仕事を見付けては時間を潰しているつもりなのになかなか時間が経たない。どうしてこういう時の時間って経つのが遅いんだろう。

 店の自動ドアが開き、バイトの男の子の「いらっしゃいませ」が耳に入り、僕も振り替える。
 「いらっしゃいませ」を掛けようとした僕にシュウが軽く微笑んだ。
 僕も笑顔で返して、お互い、他人なフリで違う方向へ向かう。
 シュウはカウンターに戻った僕から視界の隅に入るシュウの定位置、「ドキュメンタリーコーナー」で動物の生体を物色している。毎回同じ物を眺めてるんだから観れば良いのに…と思うんだけど皆が居間で遊んでいる間も勉強しているシュウにはそんな時間は無いのだろう。こうしてパッケージの文字を読む事が唯一の楽しみなのかもしれない
 「高地さん、あの人、彼女でしょ?」
 隣に立っていた自分より2つ下の女の子がニヤニヤしながら顔を近付けてきた 「えっ!?どの人?」
 「ばれた?」と言うのと「彼女?」って言うのと急に言われた事に驚き挙動不審になってしまった。
 「あのドキュメンタリーコーナーに居る金髪の。」 ビンゴです。
 「綺麗な子だよね。河上くんがナンパしよっかって言ってたから『多分、高地さんの彼女だよ。』って言ったら残念がってたよ?」 (河上くん…シフト夜中に変えよう。)
 楽しそうに笑う彼女に対し僕の心は不安で一杯になった。
 「あんまり言い触らさないでね?あの子…恥ずかしがり屋だから…。」
 いや、本当は「男」だってバレたら困るから。シュウは見た目も声も見事に女の子だけどギャップ激しく、とにかく気性が荒い。いつ店で何かあって「俺は男だ!」なんて言いだすか判らない。
 「なにじん?」
 彼女は僕の気も知らず興味津々。
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