藤井秀一郎総受小説

□『俺様』VS『俺様』
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2 お前様が何処の誰かは存じないが、俺にとって目障りな存在である事には変わりない。
 今までに遭遇した事のないタイプの男…。どう蹴散らせば良いのか判らない。 「時代の節目節目には必ず救世主は現れるものだ。お前にとっての救世主はこの俺様。判るか?
 お前は俺に心を開くべきだ。そうすればお前は現実から逃れられる。」
 男は煙を吐きながらうっとりと瞳を細めた。
 (あぁ…。)
 もしかして…
 「宗教の勧誘?」
 そう呟くと、男は首を左右に振りながら俺のTシャツの襟元を指先でなぞる。 「とぼけんなって。お前は今日、俺様に逢う為にここに来た。それはお前が望んだ事。」
 男の指を弾きながら、ありとあらゆる可能性を探る 誰かと勘違いしているのか、頭イカレた奴なのか、嫌がらせか、何かの勧誘かナンパか…。
 無関係なのに付いてくるならこのまま家に連れて帰っても良い。帰って心にぶちギレされて竹刀かレンガで殴られれば良い。それか力也の広島弁で脅されれば良い。とにかく帽子を返さないこいつをこのまま放置とはいかない。
 「帽子…返せ!」
 「これは俺様のプレゼントと言う事にした。」
すました顔で煙草の煙を噴かす男。
 「それだけはダメだ!プレゼントだから!」
 真剣な顔を彼に向ける。 (返して…!)
 「お前は初めて俺を拒否した人間だ。」
 こいつの喋りはいちいち芝居が掛かって聞こえる。 「俺様が嫌われモノなのは知っている。」
 (知っててこの態度!?) 呆れる…。
 「とにかく帽子を返してくれないか?それだけ返してくれたら靴でも靴下でもベルトでもパンツでも財布でもくれてやる!だから帽子を返せ!」
 男が俺の言葉に合わせてリズムを取るようにくねくねと腰を回す。 
 (ここに鉄パイプかビール瓶があれば俺は間違いなくこいつに留めを差しているだろう。)
 「寂しい奴。」
 相手にしてくれる人間が居ないんだろう。こんな俺みたいなお愛想も振りまけない奴に必死に自分を語ってくる。しかも、相手の言葉を聞かず一方的に自分の事を語る、寂しい奴の典型 ここは一人の人間としてより、医者を志す者として接した方が俺の為だ。
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