藤井秀一郎総受小説

□『俺様』VS『俺様』
3ページ/3ページ

3 「つまるところ、アンタの言いたい事は何?」
 改めて男を真っ直ぐ見つめる。
 男は完全に剃り落とした眉を左だけ上げて顔をしかめて黙ってしまった。
 男の、大きめの口が痙攣を起こしたように震える。 泳がせていた目を俺に戻すと「俺様の会社見たくないか?」と自分ペースにもっていこうと話題を変えてきた。
 だけどそうはさせない。 「結構だよ。興味ないね俺もかなりの俺様だから、お前には同族嫌悪を感じるよ。」
 そう言って軽く笑って見せる。
 男が細めの瞳を更に細める。
 普通にしていればきっともてる…普通に遊んでいられるタイプなんじゃないかと思う。それを何を思って俺みたいなお愛想も振りまけない面白味もない男に声をかけてきたのか理解に苦しむ。
 「俺、これから買い物に行かなきゃいけないからもう良いかな…。」
 (帽子。)
 と、手を差し出す。
 男は俺の手をそのまま握ってきた。
 「握手とかいらないから…。」
 空いている手で奴の手を払いのけようとしたが男はぎゅっと掌に力を込めてきた。
 「俺様の誘いだぞ?そろそろ自分に素直になって受け入れろよ?金で苦労するのはナンセンスだと思わないか?」
 きっと、ノブならこんな事言わない。こいつは可哀想な奴だ。貧乏人の苦労を徒労だと思い込んでいる。 「思わないね。俺はずっと金で苦労して育ってきたでも得る物もデカかった。だから取り越し苦労だなんて思ってないし、自分の生き方は割と好きだ。」
 アンタには同情するよ。 金で人の気持ちは左右できても心根迄は買えないんだぜ?
 男は、又空を仰いで笑っていたが、俺のニットを地面に投げ捨てると踵を返した。
 「根っからの貧乏性。」
 「そうだよ。」
 宝物を拾い上げ、土埃を叩き落とす。
 「そんなんより俺様がもっと良いの買ってやるのに…。」
 「これよりもっと良い物なんて存在しないね。あってもアンタじゃ買えないよ…。」
 男の寂しい背中を見送りながら俺も買い出し先のドラッグストアへと足を向けた。
 あの男が、早く暖かいモノで満たされますように…と願いながら…。

************実際、安倍川の元にきた出逢いのサクラメールがあんまりにも俺様で面白かったんでネタに使ってしまいました。いやぁ、何処にネタが転がってるか判らない世の中ですなぁ。お付き合い有難うございました。
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ