不協和音の子守唄
□愛玩動物
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2 女は、見るからに彼の好みでは無さそうだった。
焦点の合わないボンヤリした眼を細め、少女のように小首を傾げて喋る様など夕には滑稽そのものに映った。
「初めまして、此花さんわたくし、潤 美琴と申します。」
穏やかな物言いに嫌悪を感じながら、わざとらしく笑って見せる。
そこへ、髪を金色に染めたロングヘアーのメイドが紅茶を持ってやってきた。 メイドと呼ぶには卑猥な服装だった。
編み上げるようになっている胸元の紐を解き、大きく胸を露出させている。
「どーぞ?」
言葉遣いも決して美しいとは言えない彼女だが、女主人よりマシだと感じた。 「此花さん、うちの子の世話役として来たそうね?でも…貴女にそれが勤まるかしら?」
美琴はあからさまな嫌味な笑みを見せ、ソファから立ち上がるとリビングのドアを開くなり二階へ向かって大声を上げた。
「セイギー!正義!いらっしゃい!」
思わず夕も立ち上がった そんな夕の耳元で卑猥なメイドが囁いて部屋を後にした。
「気をつけな。」ーと。
スリッパを擦って歩くような足音が耳に届く。
気だるそうな足音が、階段を降りてくる。
「呼んだ?母さん。」
少女のような高音質な擦れた声、部屋に入ってきたセイギと呼ばれたその子は金とも銀とも言えぬウルフヘアの、痩せ細った性別不明な子供だった。
歳の頃は判らない。
幼く見えるが、殺意さえ感じるその目元は幼子と呼ぶには力強過ぎる。
睨み殺せそうな勢いで夕を見つめる。
その眼は血のように紅い…何処迄も不気味な子供だった。
「アンタ、何?」
ハスキーボイスが耳に心地いい。
「彼女は、あなたの世話役としてお父さんが雇ったそうよ?
どうせ、あなたは要らないでしょうけど…要らなかったら棄てるから…良いのよ?」
美琴の言葉には何か深い意味があるようだった…が夕には届く筈も無く、唯、夕に「嫌な女」という印象を与え続けた。
セイギと呼ばれた子供は一瞬、母親を見上げたが夕に付いてくるよう顎で指示した。
エントランスの真ん中を支えるように在る大きな階段を昇る。広すぎる廊下に向かい合わせのドア。
左右に視線を流しながら正義の後を付いて歩く夕。 一番奥の角部屋の前で正義の足が止まる。
「今日からお前は俺の犬だ。」
正義の言葉に夕は我が耳を疑った。