藤井秀一郎総受小説

□Tシャツ、欲情、コイゴコロ
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 (ノブが来る!)
 今の俺は完全に冷静さを失っていた。

 事の起こりは数ヵ月前にさかのぼる。
 その日の事は忘れもしない…と言うよりその日の俺の事は忘れられない。(他の事はよく記憶してない。)
 ノブから一本の電話が来た。「心くん達と同じ高校に受かったので僕もそこで一緒に住んで良いかな?」…と。その話を力也から聞いた。俺は、大喜びする太達を横目に、「ふぅん、良いんじゃないの?」と気の無い言葉を残し、コンビニに行くと外に飛び出し近所の公園で「はうあうあう〜。」と言うようなすっとんきょうな声を上げて座り込んだのだった。
 夢に迄見たノブとの生活嬉しくない訳が無かった。いつも俺の支えであってくれたノブ。痩せすぎた長身の身体に短い髪、長い指もすぐ咳き込む病弱な体質も全部、全部引っ括めて愛しくて傍に居て欲しいと願っていた。
 でも…俺にはその気持ちを外に出す可愛らしさの欠片も無い。勇気も無い。その為による『すっとんきょうな声』だった。

 「…俺、死ぬんじゃないだろうか…。」
 余りの凄まじい動機に息切れもしてきた。
 力也と太、心と夢はノブを迎えに出て行っている。家の中には初音と俺だけ。初音は歓迎会と称してちょっとしたご馳走を作っている。
 ヘタレの俺はさっきから畳を雑巾で拭いているフリをしながらどうやってノブを迎えたら良いかと頭を悩ませていた。「ノブ、逢いたかった!」とか言いながら抱きつける筈も無く、「よく来たね。」の一言ですら、なんだかいやらしい含みを持たせている気がしてどうしても第一声が思いつかない。
 「もーっ!嫌ンなる!」
 畳に頭を打ち付けていると後ろから初音に
 「秀一郎くん…あの…もう良いよ?充分綺麗になってるし…。」
 と申し訳なさそうな声をかけられた。
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