藤井秀一郎総受小説

□『俺様』VS『俺様』
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 「俺って、誰かに似てる?」
 信号待ちの交差点、一人の男が声をかけてきた。
 「は?」
 意味が判らず、思わず顔をしかめる。
 男はオレンジ色に染めた派手な髪の毛先を指で遊びながらもう一度俺に問う。 「俺、誰に似てるでしょう?」
 「…ライオン?」
 男は手を叩きながら「ウケる〜!」と空を仰いで笑う。
 「『誰』じゃないし〜!」 男の笑い声が耳障りだった。
 男から信号に視線を移す 青に変わったのを見計らい足早に人混みに紛れる。 しかし、男が何故だか後から付いてくる。
 俺が小走りに進む中、男は大股で一歩、もう一歩と歩いて付いてくる。
 (馬鹿にして!)
 俺はとうとう小走りから本気の走りに切り替えた。 
 (巻いたか?)
 後ろを振り返ったがその姿に飛び上がりそうになった。
 男が楽しそうにステップを踏みながらまだしつこく後を付いてくる。
 そして、俺の頭からニット帽を奪い取った。
 「返せっ!」
 「ヴィヴィアンじゃん!良いの被ってるぅ!」
 そう言うと男は不躾に俺のニットで派手な頭を隠す (それはノブからのプレゼントなんだから触るなよ!)
 飛び跳ねて男の頭の上の俺の宝物を取り返そうと必死になる。
 「俺と遊びに行こうよ!」 「行かない!」
 飛び跳ねる俺を馬鹿にするように俺の動きに合わせて男も飛び跳ねる。
 「カラオケ行こーよ!」
 (こいつ馬鹿なのか?人の話を聞けよ!)
 苛々しながら男を睨み付ける。
 「ベンツに乗せてやるぜぇ?」
 男が何やら歌を口ずさみ始めた。
 男が動く度にジップヘッドの髑髏が揺れる。
 全てに苛々する。
 「帽子を返せ!」
 警告するように一語一語ハッキリ発音する。
 「俺の会社見たくな〜い?」
 そう言いながら舌を出す 舌を上下に動かせ、舐めるような動きをしてみせる 「チッ!」
 ダメだ。我慢できない。 「遊びになんか行かない!帽子を返してさっさと消えろ!下衆野郎!俺に構うとぶっ殺すぞ!」
 俺のカナキリ声がこだまする。
 
 一瞬の沈黙…の後、男がポケットから煙草を取出した。
 「勘弁しろよ。」
 何なんだ…この男…。
 「俺様の誘いだぞ?」
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