藤井秀一郎総受小説
□ぼやき。
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今日は朝から雨が降り続いていた。
庭の花木が、嫌と言う程水を得てうんざりしている風にも見えた。
今日の講義は1限のみ。 皆、仕事やら友達と買い物やらでまだ帰宅していないようだった。
誰も居ない家には一人。 一人は気楽で良い…と思っていたのはやはり別の空間には誰かが居て、建物の中に人の気配を感じられたから思えた強がり。
縁側にごろり、横になる 庭の紫陽花の見える位置が変わっただけ。後は何も変わりはしない。
雨の粒がキラキラと光って見えた。自然が生み出す宝石だと思った。
一人は嫌だ。
どうしてもむかしを思い出すから。
手を伸ばして、宝石をその手に受ける。
俺の手の中で宝石は輝きを失い形を狂わせる。
俺は全てを狂わせる。
自分の存在が忌々しい。 早く、誰か帰ってくれば良いのに。
悪態ついて、罵って…いつもの俺に戻れる。
早く、誰か帰ってきて。 自分が自分で居られなくなる。
俺は、俺の中にもう一人「俺」を飼っている。
そいつはいつも息を潜めて、ドス黒いモノを抱えているんだ。
そいつの存在に気付いたのはもうずっとむかし。
仕事人間の母親と、俺を可愛がってくれた唯一無二の存在の祖母、俺をリーダーに仕立てるクラスメイトと、俺をお利口さんの枠に当てはめたがる教師、小学校という小さな社会で、俺の世界を創る人間はそれで全員。
この小さな世界が俺の全てだった。
この小さな世界で、大人は、子供は護られた幸せな存在だと思っているのだろう。そうであって欲しいと願っているから…。
だけど、大人は知らないその小さな世界がどんなに残酷で窮屈かを…。
子供の声は小さすぎて大人の耳には届かない。
子供の悩みはくだらない だが、そのくだらない悩みは子供の小さな胸にドス黒いモノを植え付けるのだ
俺は小さな世界では恵まれていた方だと思う。
天才児だと大人からもてはやされ、いつもリーダーとして駆り出された。
俺は小さな世界の独裁者だった。
こんな俺が世界の不公平を語るのはおこがましい。 そう、俺は幸せな子供だったはず…。だから、贅沢を言っちゃいけないんだ。 だけど…奴が教えてくれた。
「もっと世界を視ろ」と… 俺達子供はいつも満たされてなかった。
空腹の子供も居たし、愛情に餓えた子供も居た、何かが欠けて、何かを求めていた。