不協和音の子守唄
□愛玩動物
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高級住宅街でも有名な、とある一等地。あからさまに近隣の邸宅を見下ろすように高めに建築された一軒 その庭先は森のような雑木林に続いており、住民の不気味さを醸し出していた 主は金融会社に始まり、不動産、製薬会社と手広く商売を起こす実業家で、その嫁は近所付き合いを一切しない、噂の「変り者」だった。二人には子供が居たがその同級生ですら存在を疑う程姿を見せない、これ又変り者だった。
その為、にこやかに挨拶をしてくる主でさえ近所からは訝しがられていた。
3人の住人にメイドが9人…。生活状態のまるで判らぬその不気味な家に今日も又新たなメイドが加わる事となった。
<愛玩動物>
女が、男に出会ったのは7年も前の事だった。
短大を出たばかりの女にとって初めて出た社会は厳しいものだった。
会社は退屈、彼氏も退屈友人はそれぞれ忙しく、なかなか遊ぶ事にならない。 退屈な毎日に飽き飽きしていた。
そんな時、一軒のバーで男と出会った。
男は女の不機嫌を一目で見抜いた。
話上手な男との時間はあっという間に女を魔法にかけていく。
二人は7年と言う長きに渡り交際を続ける。
途中、数年連絡を取り合わない期間があったものの再熱した二人にはそんな期間、溜息一つ分の瞬間のようなものだった。
再会した女に、男は仕事を紹介しようと言う。
いつでも男と一緒に居られる。発情したら抱き合える。いつも男と呼吸を感じ合える、男の家のメイドと言う仕事だった。
女の与えられた仕事は、この家に住む、男の子供の身の回りの世話だった。
女の名前は此花 夕(このはな せき)。
肩上で毛先が外側に跳ね上がった黒髪を揺らしながら、男の家へと向かう。
男の家に行くのはこれが初めてだった。妻も子も居るのは知っていた。家庭と言うテリトリーに入るのだ彼女の緊張は尋常ではなかった。
やがて、家々を見下ろす一軒の堂々とした邸が見えてきた。
どうやら一階に車庫があるらしい。
門扉へと続くコンクリートの階段を上がると「潤(うるう)」と彫られた金色のプレートが目に入った。
彼の家なのだと夕は瞳を輝かせた。
チャイムを鳴らすと、やがて一人の女が出てきた。 奥の建物が広大な薔薇園の向こうに見える。
そこから優雅に歩いてくる女、彼女こそが愛しい男の女房だろう。