藤井秀一郎総受小説
□大人は何も判ってくれない
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大人は何も判ってくれない
藤井秀一郎総受小説
うちの学区内は国際的だった。肌が黒い奴も居れば髪が金色の奴も居る。母子家庭が多く、集合団地に住んでいる奴も多かった。俺の名前は藤井秀一郎。俺も又、母子家庭の金髪頭だ。
俺の住む団地の1階ベランダ下にちょっとしたスペースがあった。幸い向かいは植え込みがあり静かにしていれば邪魔される心配は無い。俺を含めた混血3人組は家に灯りが点く迄毎日そこで時間を潰した。 「金網の向こうへ行ってみない?」
そう切り出したのは金髪の友人だった。
金網の向こうとは集合住宅の隣に広大な敷地を囲ってある場所だった。
「あそこは入っちゃ駄目だって大人から言われてるだろ。」
呆れたように言い捨てると彼女はムッとしたように頬を脹らまし、今度は俺の隣に座っていた肌の黒い友人に
「金網の向こうの人に誘われたの!」
と続けた。
「遊びにおいでって!お菓子もゲームも一杯あるんだって!」
菓子で子供を釣るなんてどんな奴だろう。俺の胸には不信感しか湧かなかった
俺の不信感なんかそっちのけ。二人は菓子とゲームの魅力にすっかり取り付かれていた。二人の妄想話は膨らみに膨らんで金網を目の前にした今も尚続いている。こんな熱病におかされた二人をこのまま行かせるのも気掛かりだ。何かがあった後ではきっと俺も後悔するだろうだが、金網を前にすると怖じ気づいてきてしまった。
行きたくないとは今更言えないだろうな。
金網の下部に出来た穴から二人が中に入っていく。 金網越しに二人が手招く 金網を登ろうと足を掛けた瞬間
「コンニチハ。」
たどたどしい日本語が聞こえた。
見上げると、三人の男が視界に入った。内、一人が金髪の友人を抱き上げスカートに着いた泥汚れをはたいて落としていた。
優しそうな視線に優しそうな仕草…だけど今まで接した事のある男達…教師や友人の父兄、近所の住人とは全く違った逞しい身体つきに恐怖を覚える。
好きにはなれないな。
咄嗟に感じた。
しかし、俺の気持ちとは裏腹に、二人の友達は目の前の逞しく格好良い、今風の男達に心奪われているようだった。
「ヨカッタラ、遊ビ来マセンカ?」
たどたどしい日本語で俺達を手招く。
俺は怪訝な顔をして見せたが二人は大はしゃぎで頷いた。
甘いお菓子とゲームの山エアコンディションが快適なこの部屋は子供の心をわしづかむのにそう時間を費やさなかった。