脱色
□平子真子、受難の一日 (中編)
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昼時の定食屋は、混んではいたものの、席がないという程でもない、程々の混み具合だった。
店の者が気を利かせて、子供用の椅子を持って来たのだが、真子は頑として座ろうとはしない。
「座らんて言うたかて、普通の椅子じゃ卓に届かへんやろ」
「俺は腐っても一端の大人やで、そんな椅子、かっこ悪うてよう座れへん」
「平子サン、それじゃいつまでたっても、ご飯たべられないっスよ」
喜助がなだめると、真子はぽんと手を打ち、さも良いことを考えたかのようなにんまりとした笑みをうかべた。
「せや!ひよ里の膝に座たらええねん。せやら、ほな椅子いらへんやろ?」
ひとりで得心したように頷く真子に、ひよ里は拳骨をくれ、
「あほ!邪魔や。うちはどないして飯食うねん」
殴られた頭をさすりながら、いいアイデアなのになあと零す真子に、珍しく喜助が助け舟を出す。