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□七色の街角で
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「…まだかなぁー…」


綺麗にイルミネーションされた街並みを眺めながらため息を一つ吐き、ポツリと言葉を吐き出すと、私は近くの壁に背を預けて寄りかかった。
待ち合わせの時間は午後6時。
だが、今の時刻は午後7時。
私は待ち合わせの時間から一時間程こうして約束した相手を待っているのだが、その相手が一向に私の前に現れる様子は無い。


「まさか、忘れたって事は無いよね…?」


誰に言うでもなく言葉を吐き出すとゆっくりと視線を下に降ろす。
約束した事を忘れるような人ではないのだけれども…少しだけ、不安になってしまう。
……早く、来ないかな。


「ねえキミ。暇なら俺と一緒に遊ばない?」


突然掛けられたその声に私は下げた視線を上に上げた。
視線の先には知らない男の人。
誰…?と思うが、先の台詞を思い出して、ああ…ナンパか。と理解した。


「結構です。人を待っているので暇じゃありませんから」

「一時間も?そのわりに相手全然来ないじゃない。俺ずっと見てたから知ってるよ」


私みたいなのにもナンパなんて来るんだなと思いながらお断りの言葉を述べたのだが、帰ってきたのはそんな言葉で…。
ああもう、煩い。気にしてる事を言わないで欲しい。それに、ずっと見てたとか気持ちの悪い事を言うな。


「時間通りに来ない奴なんて放っておいてさ、俺と一緒に遊ぼうよ」

「ちょ、っと…嫌ですっ」


男の人はそう言うと突然私の手を掴み歩きだそうとするので、私は足を踏ん張りその場から動きたくないと抵抗する。
けれどそんな抵抗は男の人には効果が無いようで、私の足は次第にズルズルと地面を滑っていく。
嫌だ、どうしよう、どうしたら良いんだろう。
抵抗が効かない事に軽くパニックになり、私の頭の中はそんな考えがぐるぐると回っていた。
そんな時、


「おい」


突如、誰かの低いそんな声が聞こえた。
そして次に、私の手を掴んでいる男の人の手首が誰かに掴まれてぐいっと上に引き上げられた。それによって掴まれている私の手も一緒に上へと上がる。
え…、何?何が起こったんだろう?
突然の事に目をぱちくりとさせて、男の人を掴む手をゆっくりと辿っていき、私はその人物の顔を見た。


「…ひりゅう」

「コイツに何の用だ?」


そこに居た人物は私の待ち合わせをしていた相手であり、恋人である飛竜で…。
思わず彼の名前をぽつりと呟くと彼は視線を私の方へと向けたのだが、すぐに視線を男の人へと戻してしまった。


「ああ?何だよ、テメーには関係ねぇだろ」

「………」


突然現れた飛竜の出現に男の人は明らかに機嫌が悪くなり、言葉遣いが少し荒くなって眉間に皺を寄せると飛竜を睨み付ける。
それに対し飛竜は無言。なのだが、その目つきは鋭くギロリと男の人を睨み付けていた。
その迫力の凄い事、まるで彼が暗殺者のように見えます。


「な、んだよ…その目は…文句でもあんのイデデデデデッ!!」


飛竜の迫力に男の人はたじろいだのか体を少し後ろへと引き、声も先程に比べるとかなり小声だ。そして男の人は言葉の途中でいきなり痛そうに声をあげると、今まで私を掴んでいた手をパッと離した。
はて、一体どうしたんだろう?


「もう一度聞く、コイツに何の用だ?」

「い゙、別に何の用もねぇよっ、ただ暇そうにしてたから一緒に遊ぼうかと思ってただけだってーの!んな事より早く離してくれよ!!」


飛竜の問いに男の人は泣きそうな声で叫ぶようにそう答えた。
手首を掴まれているだけなのにそんな叫ぶ程痛いのだろうか?と首をかしげ、男の人の手首を見てみると、飛竜が掴んでいる辺りからミシミシと何やら変な音がする。え、何これ。何の音?
なんとなく嫌な予感がしたので飛竜の服の袖を軽くぐいぐいと引っ張ると、彼は目線を此方へ向けてくれたので『もう止めてあげなよ』と視線で訴えてみる。
すると彼は数秒間私を見つめた後にため息を一つ零し、男の人を掴んでいる手をパッと離した。
それによって男の人は解放された手をもう片方の手でしきりに擦り始める。飛竜に掴まれていたであろう箇所を見てみると、そこには跡のようなものがくっきりと残っていて……飛竜、どれだけ握力強いんだ。


「畜生、ふざけんなよ、馬鹿野郎ー!!」


男の人は手首を擦りながら私達から離れると、そう捨て台詞を吐いてその場から逃げ出す。それを見送りながら私は安堵のため息を漏らした。


「…大丈夫か?」

「うん、飛竜が助けてくれたから。ありがとう」

「ああ。…遅れて、悪かった」


そう言いながらすまなそうに少しだけ眉を下げる飛竜。
そんな彼の表情を見るのは初めてで、嬉しいというのと似合わないななんて思いがあってクスリと笑った。


「……何だ」

「ううん、何でもないよ。それよりも早く行こう?」


私が笑った事に飛竜が少しムッとした表情になって問い掛けるが、それを笑顔を浮かべながら受け流して私は彼に手を差し出した。





七色の街角で



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