息子、拾いました。

□人違いです
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今日もいつも通りに仕事を終えて自宅へと帰宅途中だった私は、通り道である公園の横を通りかかると、その公園中で小さな男の子が一人で左膝を押さえながら踞っているのを見つけた。
どうしたのだろう?と思い、足を止めてその子を見ていると微かに泣いている様な声がする。…怪我でもしたんだろうか?


「ねぇキミ、どうしたの?」

「……っ…さっ、き…転ん、で……怪我……し、ちゃっ…て…っ」


男の子の側へ近寄り、しゃがんでそう声をかけると男の子は私が急に声を掛けたせいかビクリと肩を揺らした。だがゆっくりと、嗚咽混じりに私が問い掛けた質問に答えてくれた。
ああ、やっぱり怪我をしてたのか…。「見せてくれる?」と更に聞くと男の子はコクコクと頷いて私に怪我をした場所―自身の左膝から手を退けて見せてくれた。
そこを見ると、血と泥にまみれ、幾つもの砂利が膝に食い込んでいる。それを見て、痛そうだと私は顔を歪めた。

男の子に此処で待つように指示して、私は急いで公園内の水のみ場へと向かった。
ポケットからハンカチを取り出して、それを水で濡らし男の子の側へ戻る。そして男の子に「痛いけど我慢してね」と告げ、汚れと砂利を落とす為、濡れたハンカチでそっと傷口に触れた。
全て綺麗に拭き取ると、私は鞄の中から絆創膏を取り出す。…何かあった時の為と思い普段から持ち歩いていて良かった。そう思いながら男の子の膝に絆創膏を貼っていく。


「……はい、終わりだよ。…歩ける?」


絆創膏を貼り終えて男の子にそう問い掛けると、男の子はゆっくりと立ち上がってその場から数歩歩き、私の方へ顔を向けると「大丈夫」と、少し笑顔を見せた。


「お姉ちゃん、ありがとう。もう怪我もそんなに痛くないよ!」

「どういたしまして、もう転ばないように気をつけるんだよ?後、お家に帰ったら家族の人に手当てし直してもらいな。消毒、してないからさ」

「うん!お姉ちゃん、本当にありがとう!」


男の子は笑顔でそう言うと私に背を向けて公園の入り口へと駆け出していく。…コラ、私がさっき言った言葉を忘れたのか。また転んだりしても知らないぞ?
そう思いながら男の子が公園の外へ出て姿が見えなくなるまで見守っていた。
男の子の姿が完全に見えなくなると「私も、帰ろうかな」と誰に言うでもなく呟き立ち上がって歩きだそうとした時、


「母さん!!」


誰かのそんな叫び声が私の真後ろから聞こえた。と、思った次の瞬間。私の腕が何かに掴まれそのまま後ろにぐい、と引かれた。そして次にぎゅっと抱き締められるような感覚に包まれる。
そう、抱き締められているんだ。私は、誰かに。

………、困った。
突然の状況下に頭の中がぐるぐると混乱する。
何で私は今抱き締められているんだ?何かしたっけか?いや、してない。…ああ、そうか、アレだ。きっと私は誰かに間違えられているとかそんなんなんだ。多分、きっと。……そうでなければ、困る。だとすれば、この人に『人違いですよ』と伝えなければ。
私はそのままの体制で、抱き締めている人に向かって声を掛けようと口を開こうとした。


「…母さん…っ」

「………………」


が、私が言葉を発するよりも早くに聞こえてきた単語に私は思わずフリーズする。
…………、母さん?私はこの人の母親なの?……いや、違う。私は子供を産んだ事も、誰かと結婚した事もない。というか、今まで恋人とかも出来た事がない…っ。つーか、この人抱き付く前に叫んだ言葉も母さんって言ってなかったか?
そうか、アレか。私はこの人の母親に間違われているんだな。そうなんだな。……しかし、母親に間違われる、か…。私、まだ二十代なんだけどな…そんな老けて見えるのかな?軽く、ショックだ。
…いや、此処でショックを受けている場合ではない。この人にちゃんと人違いである事を伝えよう。だから、落ち込むな、私。

そう思うと私は首だけをゆっくりと後ろへと向ける。そしてその時に見えたのは綺麗な銀色。
…うわ、この人銀髪だ。めちゃくちゃ綺麗な色してるよ。何コレ天然物?
凄い凄いと思いながらまじまじと目の前の銀髪を見つめる。が、いや待て。銀髪は凄いが、見惚れてる場合じゃない。
そう思いながら私は抱き締めている人へ「あの…」と、遠慮がちに声を掛けた。
その人は私の肩に顔を埋めている様で、その人の顔を見ることは出来ない。だが、私が声を掛けた事によって、その人はゆっくりと顔を上げ、私の方を見る。

視線が、合った。
エメラルドグリーンの綺麗な瞳と。
先の銀髪のように凄く綺麗だと思う。
そう、思うが…見ていると何だか吸い込まれてしまいそうに感じる。何だろう、この人、怖い。


「……何?どうしたの、母さん」


私が恐怖を感じ動けないでいると、その人がそう声を掛けてくる。
というか、人の顔を見てもまだ母さんと呼ぶか。何かね、私はそんなにキミの母親に似ているのかね?


「……ひ」

「……ひ?」


あ、口は動くんだ。
恐怖で身体は動かないが口は動くらしい。私はそう理解すると、思い切り息を吸い込んで






人違いです






そう、大声で叫んだ。
それのせいか、その人の私を抱き締める力が緩む。
その隙を見逃さず、私は恐怖で動かない身体に喝を入れるように必死で動かし、全速力でその場から逃げ出したのだった。



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