息子、拾いました。

□そんな事、最初から分かってる
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どうして、僕は此処に居るんだろう?

あの時、母さんと一緒に行ったと思ったのに。

何で、僕一人だけが此処に居るんだろう?

ねえ、母さん。教えてよ。 

どうして僕は此処に居るの?






「ねぇキミ、どうしたの?」


暮れが残る公園のベンチに腰掛け俯いている僕の耳に突如、そんな声が聞こえた。
その声を聞いてハッとし、僕は俯かせていた顔をガバッと勢いよく上げて、そのまま声が聞こえた方向に顔を向けた。
視線の先には僕より少し年上と思われる女の人、おそらく彼女が声をかけた本人なのだろう。
けれども、彼女が声をかけたのはどうやら僕ではなく彼女の近くにいた子供だったようだ。彼女は腰をかがめて子供と目線を合わせるとそのまま子供と話始めた。


……何だ、僕に言ったんじゃないんだ。


自分に向けて掛けられたら言葉じゃなかったのだと理解するとそれを残念に思い、彼女から視線を外し僕は一つため息を吐き出すとベンチの背もたれに寄りかかって自身の背を預けた。
ベンチは古い物なのか背を預けるとギシリと軋む音が鳴る。


……何で、残念だなんて思ったんだろう?


ベンチの軋む音を聞きながらふと、思った事に疑問を抱く。
…あの人に声をかけてもらいたかった、とか?…まさか、母さんでもない人に?ありえない。
そう頭に過ぎった考えを即座に否定する。

じゃあ何で?何で残念だなんて思うんだろう。
彼女を見れば解決するかな?そう思って視線をまた彼女の方へ向ける。
彼女は子供の膝に絆創膏を貼っている最中で……あの子供、怪我でもしてるのかな?
そんな事を思いながらぼんやりとその光景を見ていると、手当てが終わったのか子供が立ち上がってその場から数歩歩いてみせると笑顔を浮かべ彼女に礼を述べた。それに対して彼女も笑みを浮かべて言葉を交わしていて…。

親子ってあんな感じなのかな、とそう思う。
僕はセフィロスの思念体。彼もだけれど、僕は母さんにあんな風に接された事なんてなくて…。
だからなのか、あんな風に接されてる子供が凄く羨ましいと思った。


「私も、帰ろうかな」


気付くと彼女がそう呟いて立ち上がり、歩き出そうとしていた。
僕はそれを見るなり


「母さん!!」


そう叫んで走り出していて
彼女の側に駆け寄って、腕を掴んで、引き寄せて…。
そして、後ろから抱き締めた。

待って、お願い、行かないで。
僕を一人にしないで、お願い。


「…母さん…っ」


彼女の肩に顔を埋めて願うようにそう声を絞り出した。

彼女は母さんじゃないのにね。
僕は一体何をしているんだろう?
そして、そのまま少し時間が経過すると「あの…」と遠慮がちな声が僕の耳に届いた。
ああ、この抱き締めている彼女の声だ。きっと突然知らない男に抱き締められて困惑しているんだろう。
謝らなきゃ、そう思いながら僕はゆっくりと彼女の肩から顔を上げた。

視線が、合った。
優しそうで綺麗なその瞳と。
けれど、その瞳は僕がした行動の所為か恐怖を帯びていて…。
恐がらせるつもりなんてなかったんだ…ごめんね。


「……何?どうしたの、母さん」


だから、彼女の恐怖を和らげてあげようと思い、少しふざけて目の前の彼女にそう声をかけてみた。
すると彼女はポカンとしたような表情を一瞬浮かべるけれども、それはすぐに困惑している表情へと変わった。


「……ひ」

「……ひ?」

「人違いです!!」


彼女が何か言いたそうに声を出したから『何が言いたいの?』と問いかけるように彼女の言葉を復唱すると、彼女は息を大きく吸い込んだ後に大声でそう叫んだ。
突然の事に驚いて思わず彼女を抱き締めている腕の力が緩む。
その隙をついて彼女は僕の腕から抜け出すと、凄い勢いでその場から逃げ出した。


「人違い、だって…」


彼女が居なくなってから暫く経った後に、先程彼女の叫んだ言葉を口にする。


「言われなくてもさ…」





そんな事、最初から分かってる





公園の中で…一人、苦笑いを浮かべて呟いた。


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