飛竜
□冥王の戦艦で
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中国娘達から情報を得た後、あたしは第三の月の都――宇宙へ行く為の手段を探しに冥王グランドマスターの持ち物と呼ばれる戦艦、バルログに潜入していた。
冥王に繋がる奴らなら、冥王に会うための移動手段が必ず在るはず。そう考えての行動だ。
中国娘達が乗っていた戦艦(轟天丸と言うらしい)にはそれらしき物は見当たら無かったけど、此処ならばきっと…。
艦内を探索しながら周囲の連中にあたしが侵入者である事がばれないように気を配って進む。
轟天丸はバルログと比べると小規模で人員も少ない艦だったから侵入者である事を隠しはしなかった、だが轟天丸よりも広く人数もかなり多いこの艦の中でそれをしたら……あっという間に袋叩きかしら?
そんな事考えながら一人の男の傍を「お疲れ様でーす!」と言いながら通り過ぎた…その時だった。
「オイ、そこのお前!止まれ!」
通り過ぎた男が誰かに向かってそう声を掛けた。
誰か怪しい人物でも居たのかしらね?
自分には関係ない、そう思って先に進もうとすると。
――ガシッ!
「止まれと言っているだろう!」
と、男があたしの肩を掴んでそう怒鳴り付けた。
え……、あたし?
まさか自分に対して言っているとは微塵も思ってなくて、あたしは目を見開いて振り向くと男を凝視した。
あたし、何か呼び止められるような事したかしら?
そう思い先程の自分の行動を思い返すけれど思い当たる節はない…だって、ただ挨拶をして通り過ぎただけなんだもの。
だとしたら呼び止める理由は一体何?
「あたしが……何か?」
もしかしたら、あたしが侵入者だと気付かれのかもしれない。
男にそう問いかけながら、あたしは気付かれないよう腰に着けてあるサイファーにそっと手を伸ばし柄を握る。
もし気付かれているのならば……殺るしかない。騒がれて艦内の人間が集まる、なんて面倒が起こるのは嫌だもの。
「何か、じゃない!この先は反重力装置が置いてある部屋だ、お前は整備スタッフではないだろう…関係無い奴は入るんじゃない!」
男の言葉を聞くとあたしはサイファーの柄から手を離した。
なんだ、気付かれた訳じゃないのね。
良かったと内心安堵するが、先程男が言っていた反重力装置…それが少し気になった。
確か、数年前にどこかの科学者がそれを開発したってニュースで話題になってたわね……でも、何でそんな物が此処に……まさか、侵入者対策かしら?
そう思考にふけっていると男が「聞いているのか!」とイラついた声を出した。
あら、いけない…こいつの存在をすっかり忘れてたわ。
「すみません。あたし今日この艦に配属されたばかりで、まだ場所を把握しきれていないんです」
そう言いながら男に向かって頭を下げると、男は「なんだ、そうだったのか」と返事を返した。
「この艦は広いからな、来たばかりじゃ迷うのも仕方ない……怒鳴ってしまって悪かったな?」
「いえ、気にしてませんから」
先ずは一端この場所から離れよう…そう思い、男に「ご迷惑をおかけしました」と告げ移動しようとすると、男から「ちょっと待て」と声をかけられた。
……何?まだあたしに用がある訳?
「お前、何処へ行く予定だったんだ?」
何処へ、と言われても、移動手段になりそうな物を探して歩き回っているだけだから目的地なんてものはない。
だからといって用もなくフラフラ探索してました、と馬鹿正直に話したら怪しまれそうだ。
…あ゙ーっ、もう!なんだってそんな事聞いてくんのよ、あたしが何処へ行こうとあたしの勝手じゃない!
心の中でそう叫びながらあたしは急いで適当な目的地になりそうな場所を考える。
「え、っと……艦、長室……艦長に挨拶をと思って艦長室に行こうと思ってたんです!」
「艦長室か、此処からだと少し遠いな……よし、俺が案内してやろう」
…………はい?
え、ちょっと待って、何でそうなるのよ。
別に付いてこなくていい…って言うか、来るな。
あんたが居ると艦内を探索出来ないじゃない!
「え……いや、結構です大丈夫です、道を教えて貰えれば一人で行けますから!」
「そう遠慮するな、それにまだ艦内を把握していないんだろう?それに立ち入り禁止箇所はまだ沢山あるしな」
また怒鳴られたくはないだろう?と、男はあたしに問いかける。
まあ確かにそうね、怒鳴られたくはないわね…だけどあたしは、あんたが付いてくる方がもっと嫌よ。
あたしがそう思っているとは知らない目の前のこの男は「ほら、行くぞ」とあたしに向かって声をかける。
………、男の様子を見るとどう断りをいれても付いてくる、そんな感じだ。
あたしは「はあーっ」と深いため息をつく。
全く、面倒な事になったわ……仕方ない、後でこの男の隙をついて逃げようかしら。
あ、でも……案内して貰ってる間にこの男から色々と聞き出せれば、あたしにとって何か有益な情報を得られるかもしれないんじゃ……?
……………。
決めた、艦長室ギリギリの所まで案内して貰ったら隙を見てこいつから逃げる…又は倒す。
その間こいつからは取れるだけの情報を絞り取ってやる!
それじゃあ、情報収集を始めましょうか。
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