飛竜

□静寂な月の都
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『ザー……ッ』

「……やっぱり、駄目か」

通信機から聞こえるノイズのみの音にあたしは眉間に皺を寄せてそう呟くと通信機をしまった。

現在、あたしが居る場所は第三の月の都。
ひげ丸Jr.から小型宇宙船を借りる(強奪したともいう)事が出来たあたしは無事に此処へとたどり着く事に成功した。
…だが、戦艦バルログを出る時から今まで、本部に何度も連絡を取ろうとしたのだが、一度もつながりはしない。

全く、どういう事なのよ。まさか壊れたんじゃないでしょうね?本部に帰ったら早々に開発部の奴にこの通信機を投げつけてやろうかしら?…あ、でも確か開発部って飛竜の奴が常連っぽい感じだったのよね、前みたいにばったり出会った、なーんて冗談じゃないわよっ、アイツに会わないようにするにはどうしたら良いかしら?





とまあ、色々と考えた末(?)本部に連絡がつかないのはこの際仕方ない、このまま中に侵入してしまおう、後で連絡はどうしたんだと言われたとしてもあたしは一切悪くない、全ては壊れた通信機を寄越した開発部と飛竜のせいだ。と、結論をつけた。
何か違う?……そんなのは気のせいよ。







侵入してから数十分後。あたしはとある扉の前に立っていた。
数々の敵や罠を掻い潜り、相当な苦労をして此処までたどり着いた…と言いたいところだが、事実は全く逆。かなり楽だった。
訳は此処に来るまでの間、あたしを足止めする物…敵も罠も何一つたりとも無かったから。
何でこんな状態なのかしら?普通なら冥王を守る為に警備や罠なんかはごっそりと仕掛けておくものでしょうに。
そう思いながら目の前の扉の上に設置してある名称プレートを見やる。それには『地球統轄セクション』と書かれていた。

地球統轄、ね……。地球を一つにまとめるなんて一体どういう部署なのよ。
ああでも、世界を牛耳る支配者である冥王の組織ならばこういうのがあるのが普通なのかしら。
そう考えながらあたしは扉を…地球統轄セクションの扉を開いて中へと入る。

中へ入るとそこは広いホールのような場所になっていて、壁には大きな窓がありそこから外(つまりは宇宙だ)の様子が伺えた。
そして中央には宙に浮かぶ足場のような物(一体どんな原理で浮いてんだ)これがいくつかあって、何やら上へ続くような感じに設置されている。
上へと続いているという事は上に何かあるのだろうか?そう思って見上げてみるけれど、暗いからなのか此処からではよく見る事が出来ない。

行ってみるべきか?
しかし、今まで何も無かったけれど…罠という可能性もある。

暫しの間立ち尽くして考えた後、あたしの答えは『行ってみる』だった。
危険な可能性は十分にあると思う、しかしそれは周囲に気を張って注意を怠らなければ防げると思うし、もしかしたら今までのように何も無いかもしれないから。

そう思うとあたしは近くに浮いてる足場へとんと飛び乗る。宙に浮いてるそれはあたしが乗っても壊れたり落ちるような様子は無く、それを確認すると次に浮いてる足場へと同じように飛び乗り上へ上へと進んで行った。

やがて足場の一番上にたどり着いたのだろう、他の足場より大きいそれの上にはあたしに背を向けて立つ黒いローブを纏った人物。
ローブの人物はあたしが此処に来た事に気付いてからか、ゆっくりと此方の方を振り向いた。


「よく来たな」


そう言ってあたしを見る人物を見てあたしは目を見開く。
振り向いた人物の顔には見覚えがある…いや、見覚えがあるどころの話ではない。
こいつは…この男は、あたしが頂点に帰るために必要な大切な獲物。


「冥王…グランドマスター」


漸く見つけたわ。
さあ、冥王様。
あたしがあんたを狩ってあげる。
あんたはあたしの糧になるの
覚悟は、よろしいかしら?








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