飛竜

□最後に思うは
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ゼイゼイと辺りに息を吐く音が響き渡る。
それを出しているのは、あたし自身で、対峙している者……冥王グランドマスターは、息一つ乱さずに涼しい顔であたしを見ていた。

「なんだ、もう終わりか?」

「……っ、んな訳あるかあっ!!」


グランドマスターが馬鹿したように言った言葉が癪に触り、あたしはそう叫びながらサイファーを構え直すとグランドマスターに向かって走りだす。
素早く奴に近づいて、喉元を目がけてサイファーを突き刺す……が、その攻撃は当たらない。奴がサイファーが当たる寸前の所で神通力を使い、今あたしが居る場所から離れた場所へと瞬間移動してしまったからだ。
あたしが攻撃を開始してから、冥王に向かってどんな攻撃を仕掛けてもずっとこんな調子で避けられてしまっている。おかげであたしのスタミナはもう限界だ。


「ちく、しょ……っ」


あたしはそう呟いてグランドマスターを睨み付けた。
奴に攻撃が当たらない事に苛立ちが募る。どうしたらアイツに攻撃出来るのよ、どうしたら……どうしたらっ!!


「中々の実力はある、か……情報通りだな」

「っ?!」


突如、あたしの真後ろでそう声がして振り返る。
そこに立っていたのは、あたしが睨み付けていた筈の男、冥王グランドマスターだった。
睨み付けていた方向を確認してみると、やはり奴の姿は無い。おそらく瞬間移動を使ってあたしの真後ろへと現れたのだろう。


「貴様は殺しておくには惜しい人材だ……どうだ、余の下につく気はないか?」


そうすれば殺さずにおいてやろう。冥王グランドマスターはあたしに向かってそう言った。


「……、冥王様にスカウトされるだなんて嬉しい事この上ないわね」

「ほう…では…」

「勘違いしないで、生憎あたしは…あんたの下につく気はこれっぽっちも無いのよ」


残念でした、と言ってのけるとグランドマスターは面白くなさそうな顔をして


「そうか…ならば貴様にもう用はない、死ね!」


そう言いながら素早くあたしの首へと方手を伸ばす。突然の事と、素早いその動きにあたしは反応が遅れてしまい、奴に首をがっしりと掴まれてしまった。
首を掴むその手を外そうとあたしは必死に抵抗するが、どうしても外す事が出来ない。


畜生、このままじゃ……。


死、という文字があたしの中で浮かび上がる。
冗談じゃない、あたしはまだ死ぬ訳にはいかないのよ。


「…こん…な……」

「む……?」

「こん、な……所で……」


だって、あたしは……

まだ、あいつを見返していないっ!!



「こんな所で…っ、死ねるかああぁぁっ!!」



サイファーを持つ手に力を込め、ギュッとそれを握り直すと、あたしは叫び声と共に腕を勢い良く上に振り上げた。
ザシュッと肉を切り裂くような音が聞こえ、その直後にぎゃあという男の悲鳴が上がる。
次に、あたしの首を掴む手が離され、あたしはその場にへたりと座り込む、空気を遮断されていた肺に一気に空気が流れ込んできた為にあたしはむせ返って下を向いた。

顔を上げて現状を確認してみると、グランドマスターが呻き声を上げながら手を顔に当てて押さえていて、その手の間からは赤い血がボタボタと溢れ落ちていた。
察するに、先程あたしが振り上げた一撃がグランドマスターの顔を掠めたのであろう。


「…っは、…はははっ、ざまあみろっ!!」


一度も攻撃が当たらなかった奴に初めて攻撃が当たった、それと奴の醜態が見れた事によって笑いが込み上げ、あたしはそう言葉を発すると、もう一度自身のサイファーをギュッと握りしめて構える。
奴を殺すならば今がチャンスだと、そう悟ったのだ。
立ち上がり、狙いを奴の胸元へ定めると、そこへサイファーを思いっ切り突き刺した。










そう、突き刺した、筈だった。










けれど、突き刺した場所には冥王グランドマスターの姿なんて何処にもなくて……。










「小娘が……調子に乗るな!!」










その代わりに後ろから、また冥王グランドマスターの声が聞こえてきて……。










瞬間移動であたしの後ろを取ったのか、と理解した頃にはもう………










あたしの腹部は何かによって貫通されていて。










それが引き抜かれたと同時に、あたしは床にどうっと倒れ落ちた。










……あたし、死ぬの?
……まさか、だってあたしは最強の座に帰るんだもの、こんな所で死ぬはずがないじゃない。
そう、死なないのよ、だってあたしは……。





「ひ、りゅう……」





あんたを、見返していない。








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