十六夜桜

□原田さんED
1ページ/5ページ

――選ぶもんがでけぇ程、捨てるもんもでかくなる。だけどな、俺が選ぶのはお前だ…――


そう辛そうな声と瞳で真摯に訴えられた時、のし掛かる罪の重さよりも、幸福過ぎて息が詰まった。

――だから、お前も選べ。離すな…この俺を―――

それは、罪と背中合わせに刻む未来への誓い。
互いに大切なものを、身を切られるような想いで手放し、空いた両手に残るのは、ただお互いだけの温もり。

後悔がないと言えば嘘になるだろう。
だからこそ、私達は幸せにならなければいけないと思った。

犠牲の上に成り立った幸福だからこそ、ただ守るのではなく、育んでいきたいと…願った。

女として、鬼として、全て引っ括めて愛してくれる人に、それ以上の愛情を注ぎ続けたていきたいと。

そんな欲張りで幸せな願いが1つ、形となって彼の頬を綻ばせたあの時、漸く私達は…過去を過去として、受け止める事が出来たのかも知れない。

動乱の中で共に生きた仲間達との決別を…

その痛みを、苦悩を、未来永劫忘れる事はなくても…

【懐かしい】と言えるだけの場所が、ここにある。

親殺しの罪もまた、消える事はなくても。
小さな命を腕に抱けば、乗り越えるだけの強さが溢れ出して来る。

散り急ぐ桜のようなあの時代…どこか切なく儚い想いを胸に、空を仰ぐ。

誰よりも武士らしく、己の誠を貫いた彼らに…見届けていて欲しい。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ