エドリル、マシュティナ

□ふしぎなリルム〜プロローグ〜
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自分でもわかってるけど、本性は隠せないみたい。

ブラシで眉を整えながら、
鏡の中の、気の強そうな、二十歳の女の子と目が合って、わたしは苦笑した。

苦笑、なんていう表情が今のわたしには似合っていて、それがまたおかしかった。

10才のわたしには、全然似合わないかおだったのに。
似合う自分が、ちょっぴり誇らしかった。
でも苦しくなった。

今から会う人は、わたしの目を好きなんだって。
……へんなの。

へんな人。
はじめて会ったときから、へんな人だった。

でも今はもっとへん。


ウエストがきゅっと絞られてて、くびれが強調されて、脚が長くみえる。
このスカートを穿いて、ママは誰に会ってたんだろう?

……パパに会ってたの……?

そう考えたら、どきどきしてきた。
いけないことをしてる気分になった。


いつもセリスがしてるのを見てたのもあるけれど、
輪郭を強調したり、頬に色をのせたり、お化粧は、お絵かきとそっくりで、
わたしはすぐにそれが上手にできた。

おとなになるには、もっと練習が必要だと思っていたのに、
あっけないほど、あっさりと、わたしはじょうずに大人になれた。

少しだけ香水をつけて、髪型を整えて、
最後にもう一度、鏡の中のわたしを見る。

それから口紅を取り出して、手の甲に、少しだけ色を滑らせてみた。
セピア色の色彩の中、そこに真っ赤な絵の具が落とされたみたいに、ピュアな赤。
真紅の口紅。

わたしはそっと、鏡の中の自分のくちびるに、人差し指を当てる。

わたしは想像する。

これをつけて、彼に会った瞬間を。
彼はきっと、びっくりするだろう。

びっくりしながらも、わたしのくちびるを、じっと見詰めるかもしれない。

彼の視線を考えたとたん、わたしは真っ赤になるのが自分でわかった。

なんだかくやしい。
……でもやっぱり無理。

これをつけたら、本当に大人の女の人になってしまいそうで、それがこわいの。


ぼおっとした気持ちから、はっと我に帰ると、時計の針はもう約束の時間を指していた。

手の甲をぬぐって、口紅をしまって、瓶から赤いキャンディーを一粒取り出してポケットに放り込むと、
ママの靴を履いてあわてて部屋から飛び出した。
……アウザーさんの屋敷の、誰にも見つからないように、こっそりと。
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