エドリル、マシュティナ
□ふしぎなリルム〜プロローグ〜
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ヒールのあるママの靴はまだ慣れなくて、わたしはじょうずに走れなかった。
それでも必死で走っていった。
転ばないように……つっかえながら。
やがて広場が見えてきて、わたしは駆け足をやめる。
乱れた息を整えながら、背筋を伸ばして、できるだけゆっくり、
余裕がありそうな足取りで、つかつかと歩いていく。
……そうしていると、人の視線を感じるような気がする。
ママみたいに、もっとやさしい目だったらよかったのに。
待ち合わせの場所に向かいながら、わたしはいつもママの瞳を思い出す。
内気そうで、はにかんだような、でも、どんなひとでも受け入れてくれそうな、そんな瞳。
広場の中央にむかって歩いていくと、一際、背の高い男の人が目に付く。
男の人は、広場の時計を見詰め、建物を見詰め、そしてわたしに気がついて、
瞳を輝かせた。
今日の天気みたいに、澄んだ、きれいな水色の瞳が、
ちょっと勇敢な犬みたいに、りりしい表情になって、
それからこどもみたいに、うれしくてたまらないって、今にもかけだしてきそうなかおをして。
大人っぽくなろうとして、痛いヒールを我慢して歩くわたしと、まるで正反対みたい。
ママみたいな目じゃなくて、わたしはわたしがいやだった。
でも、わたしはわたしの目を、好きになった。
この人のせいで……この人のおかげで。
だからわたしはやめられないの。
やめられなくなっちゃったの。
こんなに嬉しそうな顔してる色男なんて、わたし、はじめて見たんだもん。
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