TOA

□喪失 -アニスside-
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ゆらゆらと揺れる瞳が、あたしを映した。

被害者みたいな顔してる、汚いあたしを。



「・・・殺した」

「・・・・・・」

「・・・アニスがッ・・・アニスが殺した・・!!
 イオン様・・・アニスが殺したぁッ・・・・・・!!」

目の前に佇む幼げな少女、アリエッタ。

その細い体からは想像できないほどの

金切り声が、部屋中に響き渡った。



「・・・そうだけど。だったらなによ」

「・・・・ッ!!」

言いたい事は山ほどあった。

両親のことで脅されていたことも。

あのイオン様は、アリエッタの好きなイオン様じゃないということも。


でも、言えなかった。

言ってはいけなかった。

何を言っても、言い訳になる気がした。

「・・・何か言いなよ。
 あたし、憎いでしょ?むかつくでしょ?」

「・・・・・・」

黙り込んだアリエッタの表情も、冷たい静寂も、

全てがあたしを責め立てた。


「・・・好きだった」

「・・・え・・・」

「・・・イオン様、大好きだった。
 イオン様のお陰でアリエッタ、生きていられた」

「・・・・・」

「どうして奪っていくの?
 ママも、イオン様も居なくなって。
 アリエッタは、誰を信じたらいいの?」

「アリエッタッ・・・!!」


「ねぇ、アニス。・・・アリエッタ、もうイオン様に会えないの・・・?
 アリエッタはもう、イオン様の声聞けないの・・・?
 ねぇ教えてよ、アニス・・・アニスッ!!!」

「・・・ッ・・・」

・・・責められるのは、当然の報いだ。
  
目の前で泣き崩れている少女には、もう誰も残されていない。

・・・あたしが、奪った。

・・・あたしが、殺しちゃったんだ・・・。



小さくなって震えるアリエッタに、私は声を掛けられなかった。

どの言葉も、寄せ集めた塵のように、安っぽくなる気がした。


・・・イオン様を好きな気持ちはよくわかる。

でも、それに同情することは

きっと最大の侮辱になるだろう。


彼女には、それしか無かったのだから。




「イオン様・・・何処にいったの・・・イオン様・・」

アリエッタはいつまでも沈んだままだった。

あたし自身が作った、深く、真っ黒な奈落の底へ。

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