短編
□君の世界が終わりの鐘を鳴らす
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君は何時もそうだった。
ふらり、と現れてはまたふわふわ、浮雲のように姿を消す。そして僕にどろどろとした醜い感情をおいていく。
何時もそうだった。
どれだけ追い求めても追いつかない。心が軋むような気がして、でも彼女の心も同じくらい軋んで、悲鳴をあげていた。
でも、僕はそれを知らなかった。
「ばいばい」
また、僕の前からいなくなるの?
にっこり。そういう効果音がつきそうな笑顔が目の前にあった。
そんな愛想のいい笑顔、みたことがなくて。少し戸惑った後、なに?と聞き返す。目の前の女は肩を指差してまたにこにこ笑った。
「その鳥可愛いですね。雲雀さんが飼ってるの?」
あまりの言葉に口が塞がらなかった。
なにをいいだすのかと思えばこの黄色い鳥。
でも、それが彼女との出会いだった。
それからも何度か遊びに来て、一緒にお茶したり勉強教えてあげたりした。
わからない感情がうずまいて、気持ち悪かったけど、そんなの気にしないで、なんてできなかった。
彼女はときどきふわりと姿を消す。
それがとてつもなくいやで。じっと一緒にいてほしくて。
雲雀さん。そういうふうに優しい声で僕の名前をュ部彼女の声が好きだった。
好き、だった。
彼女はふわりと姿を消す。それがどうしようもなくやだ。
そしてその彼女は今、僕の目の前にいる。
苦痛に歪んだ顔に、何時もは温和な瞳が鋭くみえた。それが膨張的で口元が緩む。
「ねえ、なんで僕の目の前から消えるの?」
彼女は答えない。口を硬く閉ざして。
「なんで僕のところに来たの?」
どくんどくんと心臓が高鳴る。
ゆっくり形のいい唇をあげた彼女は、一言、こういう。
「殺して」と。
その顔があまりにも綺麗で切なくて。
愛用のトンファーをかまえて、力まかせに腕をふりあげた。
愚かな恋心
に、捕らわれたのは僕。
そして後悔し、己を責めたてるのも僕なんだ。
彼女の世界の終わりを鳴らしたのは僕。
綺麗な鈴の音が響いた。