短編

□失ったもの
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失ったものなんていくらでもある。

でも、それと同時につかんだものだってあるんだ。




失ったもの



中学の時の将来の夢はプロの野球選手だった。

その為に一生懸命頑張ったし、大会にもたくさん出て、3年の頃には部長もまかされて、これってもしかしたら、なんて思っていた。

でも、現実は甘くなくて。


マフィアごっこ、だと思っていたのは実際のマフィアだった。
小僧からその話を聞いたときは本当にビビッて、まじかよ、なんて軽口たたいて誤魔化したけど、内心冷や汗だらっだらだった。

中学卒業して、オファーがかかってた高校も断って、夢だって捨ててイタリアに行った。

ボスのツナには心配されたけど、それはそれでかまわなかった。

とは言ってもやっぱり野球がない生活が物足りなくて、任務をたくさん入れてもらってひたすらに刀を振るった。

失ったものを、埋めるために。

でも、埋まらない。




つかんだもの




そんな時、出会ったのが彼女だった。

長い黒髪が綺麗な人だった。

野球を諦めるしかなくなったオレの心を、彼女がそれにも余るくらいに満たしてくれた。

野球、私も好きだよーなんて笑って言う彼女の顔が好きだった。

いっつもニコニコ笑ってて、いつのまにか愛してた。

それに彼女も答えてくれて。


結婚、して彼女はさらに綺麗になったと思う。

今も、野球の話をするオレを綺麗な笑顔でみつめてくる。

「野球、やろうかっ!」

そう言った彼女はどこからかバットとボールを持ってきてにっこり笑った。

何年ぶりかの野球が、大好きな人とできるなんて思ってもなかった。

嗚呼、これを、幸せというのか?




失ったぶん、つかんだものも大きい!

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