短編
□失ったもの
1ページ/1ページ
失ったものなんていくらでもある。
でも、それと同時につかんだものだってあるんだ。
失ったもの
中学の時の将来の夢はプロの野球選手だった。
その為に一生懸命頑張ったし、大会にもたくさん出て、3年の頃には部長もまかされて、これってもしかしたら、なんて思っていた。
でも、現実は甘くなくて。
マフィアごっこ、だと思っていたのは実際のマフィアだった。
小僧からその話を聞いたときは本当にビビッて、まじかよ、なんて軽口たたいて誤魔化したけど、内心冷や汗だらっだらだった。
中学卒業して、オファーがかかってた高校も断って、夢だって捨ててイタリアに行った。
ボスのツナには心配されたけど、それはそれでかまわなかった。
とは言ってもやっぱり野球がない生活が物足りなくて、任務をたくさん入れてもらってひたすらに刀を振るった。
失ったものを、埋めるために。
でも、埋まらない。
つかんだもの
そんな時、出会ったのが彼女だった。
長い黒髪が綺麗な人だった。
野球を諦めるしかなくなったオレの心を、彼女がそれにも余るくらいに満たしてくれた。
野球、私も好きだよーなんて笑って言う彼女の顔が好きだった。
いっつもニコニコ笑ってて、いつのまにか愛してた。
それに彼女も答えてくれて。
結婚、して彼女はさらに綺麗になったと思う。
今も、野球の話をするオレを綺麗な笑顔でみつめてくる。
「野球、やろうかっ!」
そう言った彼女はどこからかバットとボールを持ってきてにっこり笑った。
何年ぶりかの野球が、大好きな人とできるなんて思ってもなかった。
嗚呼、これを、幸せというのか?
失ったぶん、つかんだものも大きい!