短編

□モノクロのレクイエム
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あいつは、何時も綺麗な声で唄っていた。

流れる涙を、堪えるように硬く瞳を閉じて、形のいい唇をかみ締めて。

今、このときを生きているという証を刻んでいた。




背中に負った逆十字

涙を堪えて前を向く

見えるのは闇か光か地獄か天か

嗚呼、悲しき定めを背負ったからに

目の前見えるのはただの無

背中に負った逆十字

静かに時を進めていく

嗚呼、悲しき定めを背負ったからに

進む時のなか掴むのは無




その声は、憂いを含み、なにかを愛でるかのように瞳を開く。

覗く真紅の瞳は、なにもかもを拒絶するかのように虚ろなもの。

背中に負っている十字架は、あいつを雁字搦めにして、どんどん壊していく。




愛があるから悲しいのか

愛があるから過ちがおこるのか

なら、私は愛を捨てましょう

そんなものに雁字搦めにされるなら

嗚呼、そうだ 愛なんて消してしまおう




オレに向けたその声に、感情は篭っていない。

真紅の瞳から零れた涙は、白い頬を滑る。

血に濡れたオレの身体を、細い腕が撫ぜる。




「愛があるから悪いのよ?」

「なんで、私なんか愛してしまったの?」

「この、背中に貴方まで背負えというの?」

「逝かないでよ…」

「私が、逝くまで逝かないで……!!」




唄うかのように吐き出した言葉は、なんとも悲痛で。

モノクロだった世界に、光は射しこんだのか?

モノクロの唄を、綺麗な声で唄ってくれ。




モノクロ
イエム


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