Novel


□夕日の境界線
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少女の笑みに知らず安堵の息をついた景麒は、静かに目礼をした。すると陽子は、自分の傍らの草地を軽くたたき、ここに座れとでも言うように彼を促す。
景麒はおとなしくそれに従い、陽子の隣に座った。
とくに会話もなく、二人とも無言だった。その時間を、もう嘗のように気まずいとは感じない。安心の域を出ない、穏やかなものだった。

特別、目を見張るようなものもない殺風景な景色を眺めていると、ふいに片側に重みを感じた。
見れば、陽子は景麒の方へと身体を預けている。
やがて陽子が口を開く。
「……つまらなかった。景麒がいなくて」
本当につまらなそうな声で呟いた。
「やっぱり、普段いる人がいないのって、結構寂しいものなんだね」
ぽつりぽつりと言葉を継ぐ主を、景麒は目を細めて見やった。
「……そうお思いでしたら、何かと出奔したがるご自身の癖を改めてください」
責めるふうでもなく言う景麒の言葉に、陽子は軽く肩を揺らして笑った。
「うーん、まあ、努力はしてみるけど……」
言外に、自分も寂しいのだと言ってくれていることが、嬉しかった。



他愛のない時間が過ぎていく。陽子は相変わらず、景麒に身をもたせ掛けていた。
できることならば、その細い肩を抱き寄せてやりたいと、景麒は思う。その柔らかな髪の毛を梳いてやりたいと。
人目のないこの場所でなら、おそらくそれは難しくないことだった。それでも彼は躊躇う。伸ばしかけた手は、彼女のどこへも触れずに降ろされた。

日が、傾いている。
けれど、まだここを動きたくはなかった。温かな重みを傍らに感じることが許されるこの場所に、もう少しだけ踏み止まっていたい。
そう望む自分を愚かに思いながらも、願わずにはいられないのだった。










※※※

タイトルは、ほぼ関係ありません。適当です。好きな歌の和訳詞から引っ張ってきました。
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