Novel


□すべて不完全なるもの
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All imperfect things.















――景麒がおまえを選んだ以上、景麒にはおまえの醜さや浅ましさが必要なんだ。

この世界に落とされ、初めて得た半獣の友人は、かつて陽子にそう言った。

――おまえだけでもたりねえ、景麒だけでもたりねえ。だから王と麒麟と、ふたつで生きるように作られてるんじゃねえのか。

足したらちょうどよくなるんだ、と。



不完全なもの同士が足され合って、ようやく完全なものになる。
陽子を完全にするのは景麒だったし、景麒を完全にするのは陽子だった。互いを互いでしか、完全にすることができない。
そんなのはもう、疑う余地もないくらい分かりきっていることだった。





なぜ天は世界に麒麟を与えたのか。目の前の半身を見つめながら、陽子は考える。
彼は限りなく完璧に近い存在だと思う。天によって作られた、特別な存在。

それでも決して完璧になりえないのは、彼が――麒麟という生き物が――その身ひとつでは生きていけないから。
彼らは、王なくしては生きられない。王の傍になければ、自身そのものを立ち行かせることが適わない。
それは王も同じだった。麒麟なくしては、王が生まれることはない。

だから景麒も陽子も完璧ではなかった。
半身と呼び合うのは、ふたつが共になければ存在することができないからだ。

なぜ天はそんなものを作ったのか。どうして、そんな結びつきを与えたのか。
ほつれることを許さない結び目が、確かにそこにはあった。
なのにどうして、景麒も陽子も、その結び目に、何の後ろめたさも感じることなく縋りつくことができないのだろう。



手を伸ばせば簡単に触れられるほどの近さにあって、それでも、もどかしさと躊躇いがそこに残っている。

景麒の混じり気ない薄い金の髪も、密やかな紫の瞳も、すべてが繊細で整っている。
目前に佇む人の、どこにも欠損などありはしないのに、彼はどうしようもないほど陽子の半身であり麒麟だった。
離れることなどできるはずもなく、望むままに寄り添うこともできない。
届かないものを羨む気持ちで景麒を見上げながら、陽子は悲しげに微笑んだ。

心を戒める見えない鎖が巻きつく。
その鎖を断ち切り、越えがたい領域に入り込んだのは、景麒の手だった。
しなやかに腕が伸ばされると、その指先は陽子の頬をかすめる。何かを払うように、彼はそっと指を滑らせた。
――陽子は泣いていた。





手を差し伸べたのは、陽子が泣いていたからだ。彼女は、自分が涙を流していることに気づいていないようだった。
だから零れ落ちる滴を、景麒はいつかと同じように拭ってやった。
続いて陽子との間にあったわずかな距離を埋めるように足を踏み出したのは、純粋に彼女に近づきたかったからだ。

たとえば陽子も同じくそれを願っていて、けれど躊躇っているのだと、頭でそれを了解していたとしても、近づかずにいることはもはや不可能だった。
そうして本当に間近く互いの存在を認めてしまっても、陽子はできるだけ景麒との距離を保とうとする。
彼の広い胸に手をついて、俯いて、できる限りの力で押し戻そうと試みる。
無駄な抵抗だと、分かっていた。

胸に頼りなく置かれた小さな手をとれば、それは難なくおろされた。
もう隙間などない。物理的な意味においても、心理的な意味においても。
陽子は目をつむる。俯いたまま、ゆっくりと額を景麒の身体に押し当てた。
先程、景麒を引き離そうとした指先は、彼の衣をしっかりと掴み取っていた。
怺えようとする先から、涙が溢れる。

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