Novel


□バトルフィールド
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陽子の半身は無駄に背が高いから、こちらが精一杯つま先立ってみても彼の口許にはちっとも届かない。
だから絡みつくみたいに彼の首筋に腕を回して、景麒が身を屈めて、それでやっと望んだものに近づくのだ。
欲しいものは何故いつも高いところにあるのだろう。そんなことを考える。
しがみつくように衣服を握り締め、微かな苛立ちに任せて薄い唇に噛みついた。





執拗に口づけ合って仰け反らせた首が疲れてくる頃、邪魔くさい夜着を取り払うために景麒の指がにじり動いた。
だが、その手を制止するように払いのけると陽子は彼の胸ぐらに掴みかかり、勢いよく臥牀へ押し倒した。
そうして男の腹の上に跨がる。
すると彼女は景麒を見下ろしながら不敵に妖艶な笑みを浮かべて言い捨てた。
お前に手伝ってもらわなくても服ぐらい自分で脱げる――と。

躊躇なく帯に手をかけ素早く解いた。
袷が一気に緩んだ夜着は、頼りないほどあっさり肩から滑り落ちる。
帯も夜着も、陽子は床に投げ捨てた。
それから零れる長い赤い髪を両手で束ねるように持ち上げて背中に流すと、もう彼女の身を隠すものは何もない。
大胆で無防備で若く美しい裸身が景麒の前に晒される。ほっそりと、しかし十分なしなやかさを残したその肢体。
極上の眺めだった。



些か乱暴に景麒の衣を押し広げて、陽子は見惚れるような白い肌に掌を這わせる。
満足げに微笑んで唇を押し当てた。
あたたかい身体に安心して、陽子は幼子みたいに彼の首筋へ顔を埋める。
景麒にしてみれば小さくて軽いばかりの娘など自身から退かせるぐらい容易いが、そんなことをして主の機嫌を損ねるのは、あまり頭の良いこととは言えない。
様子を見て、しばらくは彼女の好きなように遊ばせておけばいい。
緩く波打つ髪の感触を確かめるように梳いてやりながら景麒はひっそりと思った。








触れる身体の柔らかさが心地よい。
少女は相変わらず景麒に馬乗りになったまま、楽しげに動いていた。
無駄なく整った体躯を弄んだり、歯を立てたり痕をつけたりするのに忙しい。
そうした行為に夢中になっている陽子の露わな背を景麒は指の先でつとなぞった。
一瞬だけ華奢な肩がぴくりと震える。
その隙に彼は、陽子ごと身を起こして彼女をするりと自らの下へ追いやった。

あっけなく景麒に組み敷かれてしまった陽子は、不服そうに眉を蹙める。
まだ遊び足りない、とでも言いたげな様子で半身の顔を睨んだ。
いかにも美味そうな紅唇から抗議の言葉が繰り出される前に、景麒はそれを塞ぐ。
くぐもった声が漏れるのもほんの束の間で、幾ばくもなく陽子は与えられるものを素直に受け取っては返した。
唇をずらして彼女の耳許に寄せると景麒は微笑の乗った声音で囁く。そろそろわたしにも楽しませてくれませんか、と。
小さな娘は微かに身を竦ませた。



男の手や唇や舌とかが肌のどこかを掠める度に、ぞくりとしたものが駆け抜ける。
背筋が粟立つぐらいの気持ちよさに、思わず深い溜息が零れ落ちた。
こうして結局また、この身体は彼の言いなりになってしまうのだ。
素肌の上をさ迷う指は、驚くほど的確に陽子の身体を知り尽くしているから。
景麒が動けば、もとより抵抗する気もないこの身体は勝手に反応してしまう。
悔しいけれど諦めるしかないのだった。

勝敗など端から決着がついているようなものだが主が悪足掻きをする時、景麒は少しだけ彼女を優位に立たせてやる。
でも、そんなのは陽子も分かっていた。
それに実のところ、景麒の下で景麒の言いなりになるのも、こうして縺れ合って広い背中に縋りつくのも嫌じゃない。
意志とは関係なく身内から生まれてくる声を、抑えるつもりもなかった。
その方が何だか彼も幸せそうにするので。





緩やかに登りつめた先から階が崩れ落ちるのにも似た感覚に支配され、陽子はただぼんやりと横たわっていた。
視野に映る景麒は満足げな微笑を浮かべていて気に入らないが、望みどおり彼の体温に包まれて眠ることができる。
髪を撫でてくれる大きな掌も頬に宛がわれる指先も、やっぱり好きだった。
だから陽子は愛しい半身の懐へと擦り寄って、いつものように目を閉じた。















※※※

妄想って素晴らしいですよね。

20111002
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