Novel

□ミカンズさまより(十万打記念小説)
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冷たい頬





このひとは不思議だ、と虎嘯はよく思う。

眩しいくらいのちゃんとした女王様なときもあれば、子供じみてまるで悪童のように振る舞うときもある。

そうかと思えば、今みたいにどこか物憂げに遠くを見つめる表情はその辺の町娘のようで、声を掛けるのも躊躇われた。

「なんだ、虎嘯じゃないか」

なんとなく声を掛けそびれてしまった虎嘯に陽子は振り返ってほんのりと笑う。

「さっきから気配がしてた。黙って声を掛けてこないから、てっきりあいつかと思ったのに」

勉めて可笑しそうに言う陽子の指すあいつ、とは宰輔のことであろう。

虎嘯がこの金波宮に来てまだ日は浅いが、王と宰輔の言い争いを聞かない日のほうが少ないくらいで、しかもどう好意的な目でみようとしても王宮の中は陽子にとって好意的でない人数の方が多い。

なんだかなぁと思うがそういうものらしい。

せめていま以上に陽子にとって悪い方向に色々が向かないように、少々奇特な目で諸官から見られている虎嘯は、多少自分の行動に気を配っていた。

虎嘯は自分で学がないと思っているし、思い付く限りで陽子のためになりそうなことと言ったら、陽子に悪意を抱く者に付け入る隙を与えないよう、自分が大人しくすることだけだったからだ。

「…おう、どうした、しょぼくれた顔して」

近くまで寄って陽子に笑いかけると、陽子は困ったような顔をした。

「虎嘯の方が、しょぼくれた顔をしてるよ…」

無理矢理ちょっと笑ってふっと虎嘯から顔を逸らせた。

そしてまた、物憂げに膝を抱えるので、虎嘯は慌てて陽子の隣にすとんと座る。

「なんだよ、どうしたんだよ」

「……虎嘯こそ」

「俺はどうもしない。別にいつも通りだぞ」

「そう?そうは見えない」

「いや、実は朝腹を壊したんだ」

はははとわざとらしく快活そうに笑ってやると、陽子はわざとらしさに気付きながらも、救われたような顔をしてくすりと笑った。





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