ポップ
□ばら城
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ばら城@
夜が空け始めた静かな時間に、妖精の丘の麓を、黙々と歩く人影がある。
あまりにも巨大な木々がしげり、小高い丘が、まるで翼の様に膨らみ見えることから、ここは、「妖精の丘」と、呼ばれている。
星が、散りばめられて、幻想的に輝きを放っていた天空は、薄く白い霧が包み込んで、明るさを持ちはじめていた。
先を急ぐのか、旅人は、空を仰ぐこともない。
木々を避けては、森深く入っていく旅人の足元に、よく見ると、小さな毛玉がいくつか、ほんわかと光る。
旅人は、それを目で確認すると、足をとめて、光のひとつにそっと手を伸ばす。
「、、、、弱いな」
ふうん、とため息をつくと、淡い光の玉を指先でピン、と弾く。
光の玉は、弾かれ、近くの木の幹にぶつかると、ぽよんと漂いながら、森の木々の間を、すり抜けていく。
それを見送るように見ていた旅人は、また歩き出した。
しばらくすると、木々の合間から、太陽の光が差し込みはじめた。
霧の森に、横から差し込む白い光が、幻想的に葉についたつゆを、輝かせる。
一瞬、目に見えるすべてが白くなり、旅人もその光に包まれて消えた。
驚くべき力をもって世界を包み込んだ光は、やがて穏やかに、世界の姿を、鮮やかに縁取り始める。
ひとつの朝がはじまったのだ。
しかし、その世界に先程まで歩いていた旅人の姿は、なかった。