ポップ長編

□ビー玉の軌跡T
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ビー玉の軌跡T








朝焼けに浮かぶ紋章に、体の奥が震えだし、その震えが全身へと拡がっていく事を止めることが出来なかった。







それは、かの大地に浮かび上がった、懐かしくも歯痒い光の筋であった。









「死の大地に、行かれるのですか?」
今や祭り上げられ大神官となった少女が、変わらぬ気弱な様子で聞いてくる。俯けばさらりと長めの黒髪が揺れる。その美しさに、いつもドキリとする事は秘密だ。

嫌な予感がするのです。少女は零れるように呟いた。


「、、。あいつが待ってるかもしれねえなら、どこへだって行かなくちゃ。どんな所でも。誰よりも俺が、あいつを待ってるんだからさ。」

にっと、安心させるように、この少女の好きな、いたずらっぽい笑顔を作る。


「ポップさん、、、。」
少女は少し躊躇った後、俺の目を見つめて、探るような仕草をした。
すると急に、透明な、感情のない表情になる。


「貴方に伸ばされる手は、貴方を掴まえることは出来ないけれど、貴方もまた、伸ばした手で、欲したものを掴まえることは出来ないでしょう。」







ズキリとした。


胸に深く突き刺さる言葉達に、いつからか、この少女の自分への執着を感じるようになった。
少しずつ顔色を戻す少女を見つめながら思う。
いや、この少女でさえ自覚していない。少女の背後にほの見える少女の崇めるあの方のー。


いや、考えすぎだろう。ただの魔法使いに、自惚れが過ぎる。やっとあの師匠に追い付けたばかりの魔力やそこらに。

神殿は、優しい風が吹き込み、午後の城下の気配をさせる。遠い子供たちの笑い声に、自然と口元が緩む。どこか遠くを見つめて微笑む少年に、はっきりと自分を取り戻した少女は頬を赤らめながらも、目をそらせない。

「ポップさん、、。」


行かないで、と言うことは出来ないし、そして貴方も、足を止めることはないんだわ。

そんな弱くて優しくて、でも強くなる貴方をずっと見ていたいんだもの。ダイさんに嫉妬するなんて、私恥ずかしいわ。


メルルは、少年の横顔に、ほうとため息をつく。


「いつ、発つのですか?」
メルルは微笑んで受け入れる。

「今から。」
ポップの返答に驚きはしなかった。朝焼けの中に紋章が写し出されたのが、今朝のこと。自分の目だけでは、不安を感じ、他の誰かが、紋章を確認していないかと、神殿のメルルを思い出した。メルルに確認し、確証を深めた今、ポップを留まらせるものは何もなかった。



「そうですか。お気をつけて。」
「ああ。ありがとな!メルル。姫さんには秘密で頼むよ!似てるってだけで、しかも一瞬のことだったからさ。期待させてガッカリさせたくない。」
本当は、国の復興に尽くす彼女に、ダイ捜索の為の人員を出すことは不可能であった。一年を経て、平和に慣れ親しんだ国民は勇者を探す必要を感じていない。パプニカの姫はその事を肌で感じ、哀しみながらもしかし、諦めきれてはいないのだ。
同じ想いを抱える姫を、ポップはなんとか支えたいと思う。
ポップは手を高く挙げ、大きく振ると、ルーラを唱えた。

「優しずぎますよ。ポップさん。」
少年の消えた空に、メルルは呟く。
その優しさが、貴方を何処か遠くへ連れ去ってしまう。




帰ることの出来ない。何処か遠くへー。
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