ポップ長編

□ビー玉の軌跡U
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ビー玉の軌跡U






魔力を取り戻し、ヒュンケルとラーハルトと別れ、ルーラで移動しながら、ポップは、ある日のことを思い出していた。





あの日ー。




「だから、おまえはまだヒヨッコだってんだよ。」
マトリフは笑っていた。口の端から血が流れるから、強がんなよって悪態をついてやった。






大戦後、世界から離れて暮らす師匠に会いに行ったときの話だ。


丘の上に、野の花が咲き乱れた場所がある。大きなどんぐりが実をつける、生命力に溢れた大きな木が生えている。

木の間に、ハンモックを吊るして、ポップはよく昼寝をしていた。修行など、放り出してだ。
師匠は外にあんまり出てこなかったが、その日は何故か調子が良さそうで、丘の上まで歩いてきたんだ。



そして、やっぱり敵わねえなと、思った。


「おわっと!」
師匠は、傍まで来ると、ドスンとハンモックに腰をおろす。ポップはバランスを崩して落ちそうになった。


「結界を創らねぇか。」
師匠は、気にした様子もなくポップの足をひっ掴むと、ずり落ちた体を引きずりあげながら、真面目な顔で切り出した。俺は、体を起こして、師匠に向き合った。

「結界?」
唐突に何を言い出したのか分からなかった。引きずりあげられたときに、服の裾が捲り上がり腹が見えていた。それを直しながら師匠に尋ねる。


「考えたことはねぇか?自分が、最強の魔法使いだと。」
師匠が何を言いたいのか、分からなかった俺は、黙ってその先を待った。

「自分が最強だと、勘違いしたり忘れがちだが、弱点はある。」
じゃくてん?


「俺は、非情に徹することで、その弱点を無くした。分かるか、ポップ。お前さんは非情にはなれん。弱さそれこそが、お前さんの強さだからな。」
師匠は、諦めたように弟子を見つめ、愛しそうに笑った。

「お前さんは俺の自慢の弟子だ。誇らしく思っている。」
誉めちぎられて、俺は居場所なく感じた。恥ずかしかったのだ。

「なんだよ、師匠。どうしちゃったの?」
ポップは照れ隠しに、頭をガシガシ掻いた。


「ポップ。お前は周りに愛され過ぎている。そして、お前さんも周りを愛しすぎている。」
暖かな風がふく。

「その為の、結界だ。」



師匠は、ぷいと横を向いてしまい、それ以上は会話が続かなかった。

でも、俺には師匠が何を言いたいか分かったんだ。






分かったんだよー。
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