ポップ長編
□ビー玉の軌跡U
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師匠の命は、後一年も持たないのではないかと思われた。
命をかけた、師匠とふたり、世界に結界を張ることにしたのだ。
愛しすぎている人々を守るために。
「ごめん。」
呟いた言葉は小さ過ぎて、師匠には聞こえなかったかもしれない。でも俺は、謝らなくてはいけなかった。
「だから、ヒヨッコだってんだ。」
師匠は笑った様だった。口の端から血が流れては、師匠は気付かれまいとサッと拭く。
師匠は知っていたんだ。俺が、愛する人達のために、師匠の命を盾にすることをー。
バカ弟子は悩むだろうが、それでも、最後に、不器用過ぎる弟子に何かを残したかった。ただ一人、生き残っている愛しい人間に、何かを残してやりたかったのだ。
その為に、自分の命を捧げることが出来るなら、つまらない自分の人生でさえ、なんと価値あるものになるだろうか。
輝いて煌めいて、ほんの小さな、けれど大切な宝物になる。
その為に、まだ若いこの弟子に負い目を背負わせるのだ。
「ったく、手のかかるバカ弟子だぜ。」
いや、どちらが、バカなのだろうか。
結界は、成功した。
世界を包み込み平和な日々を、多くの者は知らずに過ごした。
それで良かったのだ。ただのお守りのようなものだったから。
しかし、師匠が死んだとき、俺ははっきりと悟ったのだ。
この結界が師匠から寿命を奪い取り、世界を守っている。
小さな町の、しがない武器屋の大切な人たち。
俺の弱点ー。
師匠は、俺には言わず、俺の故郷に幾重にも編み込んだ結界を展開していた。
師匠の命と、俺の魔力が、守っている。
幾重にも、丁寧に、大切に守っている。
ルーラを唱えれば、すぐにもたどり着ける。帰りづらいけど、いつだって帰りたいと思っていた。
立派になるまでは、絶対に帰れないと意地を張り、振り返ることもしなかった。
あの町ー。
愛しい家族ー。
どうか、ただの思い違いであってください。
どうかーー!