彼女の綺麗な横顔を見つめる。
触れたら壊してしまいそうで…手を伸ばしては何度も躊躇った。
風通しのいい彼女の家のベランダの手摺りに寄りかかりながら、ニンゲン共が行き来する外の景色を眺める。
「どうしたの?」
「別に。…何でもないよ」
そう、何でもない。
僕はただ、壊さないように遠くから見てるだけ。
こんなに近くにいるのに…。
存在は遠い。
「何でもないことないでしょ?」
もう…とか言いながら隣で頬を膨らませる。
彼女はニンゲンだ。
人造人間の僕とは違う。
だから…
余計に嫉妬してしまうのかもしれない。
「…大丈夫?」
「うん」
「そう…ならいいけど」
ニンゲンは嫌いだ。
でも、彼女のことは不思議と嫌いじゃない。
僕の正体を知ったら…きっと、嫌われる。
「この前ねー、鋼の錬金術師さんに会ったんだ!」
「!…ふーん」
本当はいろいろと聞き出したかったけど、変に思われそうだから止めておいた。
「ちっちゃいし可愛くてね、からかうと反応が面白いの!」
楽しそうに話す彼女の横顔を見て、また少し、嫉妬する。
「おチビさんの話はいいからさ、あんたのこと聞かせてよ」
せっかく二人きりなのに、おチビさんのせいで時間を浪費したくない。
「私の話…?」
「そ。あんたの話」
首を傾げて、そうだなぁ…と考え始める彼女。
彼女との関係は…ただの顔見知り程度。
仕事もないし、暇だったからつい声をかけてしまった。
彼女はそんな僕に不信感を抱いた様子も見せず、今、こうして話し相手になってくれている。
「そういえば、名前は何ていうの?」
「……そんなの聞いてどうするの?」
問いに問いで返すと、彼女は困ったような怒ったような…判別のつかない顔をした。
「知りたいから」
「ふーん…」
知ってどうするの?…とは聞かなかった。
「ふーんじゃなくて、名前。教えてくれてもいいでしょ?」
別に名前なんて知っても何の得にもならないのにさ…。
「エンヴィー」
「エン…嫉妬って意味?」
「まあね…」
“嫉妬”が名前なんて、やっぱりニンゲンにとったらおかしいかな…。
「変わった名前ね」
それだけ言うと、僕と同じように外の…遠くの景色を眺める。
名前に関しては深くつっこまないらしい。
「あんたは?」
「私?」
「うん」
「私は……」
風が彼女の綺麗な髪を揺らす。
透き通るような凜とした声で彼女は名乗った。
「悪くないね」
「何よーその言い方」
彼女の笑顔につられて、ちょっとだけ頬が緩む。
特に珍しい名前でも何でもない。
けど…、彼女らしい名前だと思った。
こんなにも近いのに、
(存在は遠い…)