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□闇夜の月A
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「ありがとうございましたー」
客を見送り、ふぅ、と息を吐く。
あれから、一ヶ月が経った。
ユフィはホテヘルを辞め、コンビニでバイトをするようになった。
もちろん、収入は以前の方が格段と良い。
けれど、こうしたのは自分への…ケジメ。
そして、こうやってバイトをしながら就職先を探している。
これからはまともに。
あいつに、そう教えられたから。
「キサラギ」
「はい?」
「お前、もうすぐ上がる時間だろう?悪いが、最後に店先のゴミをまとめて裏に置いてきてくれ」
「はーい」
店長に言われ、ユフィはレジを離れて店を出、すぐ側にあるゴミをまとめ始めた。
(…あーあ…)
先程と同じく溜め息をつく。
(今頃何してるんだろ…あいつ)
いつも、こう。
ほんの少しの暇さえあれば、すぐにあの人の顔が脳裏に浮かぶ。
「クラウド、か」
誰にも聞こえないぐらいの声で、ぽつりとその名を紡いだ。
(あー、もう!)
何だろう、このモヤモヤは。
クラウドの事を考えると、何故か胸の奥がツキン、と痛む。
ユフィは乱暴にゴミをまとめ、大股で店の裏へと行った。
ドスン!
大量のゴミを投げるように店の裏へ置き、手首に付いている時計を見れば針は20時を指していた。
「よし、上がり時間ぴったり」
パンパン!と手を払いながら言い、ユフィは店内の奥へ行って適当に着替え他の店員や店長に挨拶をして外に出た。
世の中は1月。
夜8時ともなれば寒さが身に染みる。
ユフィは両手にはぁ、と真っ白な息を吹き掛け、夜空を見上げた。
と、同時だった。
「見て!クラウドよ!」
「ホントだー!超カッコイイ!」
周りではしゃぐ、今時の若い女達。
ユフィもつられてその女達と同じ方へ視線を移した。
「あ…」
高いビルに付けられた大型ビジョン。そこには…大きくクラウドが映し出されている。
周りの女達の声が耳に入ってくる。どうやら、某有名ブランドが出した新製品であるユニセックスの香水のCMらしい。
(…ふーん…)
改めて、クラウドが超人気の有名人である事を痛感したユフィ。
…手が、届かない存在。
ん…?
手が届かない…存在?
あたし、手が届いてほしいとか思って、る?
「ばっ…」
かじゃないの!?
発する言葉は、何故か音には出なかった。
誰かの大きな掌が、頭に置かれている。
(どう、して…)
振り返らなくても…分かってしまった。
この手が誰のものなのか。
クラウド…。
でも。
(ごめん…!)
「っ、おい…!?」
その場から逃げるように、ユフィは振り返る事なく全速力で駆け出した。