□闇夜の月A
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駄目、駄目、駄目。

顔を見たら、いけない。

だって、あたしとアイツは住む世界が違う。

あたしに関わらない方が…!

はぁっ、はぁっ…

全力で駆け抜ける。

真冬の寒さなんて気にならなかった。

でも、立ち止まる訳にはいかない。

「はい、そこまで」

「!?」

ぼふ!と顔面から思い切り誰かの胸にぶつかる。

いてて…、と顔を上げれば…

「クラウ…っ!」

名前を発する前に、クラウドに手で口を塞がれた。

「んー!」

「…こんなとこで俺の名前を叫ぶな」

こくこく。

ユフィが何度も頷くと、クラウドはゆっくりと手を離した。

ニット帽を被り、黒淵の眼鏡をかけて完全変装しているクラウド。

それでもユフィには、すぐにクラウドだと分かってしまっていた。

「っ、な…何で…追いかけてくん、の…」

息切れしているせいなのか、緊張しているせいなのか。ユフィは途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

「何でって…お前が逃げるから」

「だ、だって…」

「だって?」

「あ、う…」

「………」

ユフィが何も言えずに下を向いてしまうと、クラウドは一度周りを見渡した。

(まずいな…気付かれたのか?)

周りが、ざわつき始める。

クラウドは変装しているとはいえやはり、目立つ。

眼鏡をしていても、その奥の顔が非常に整っている事が分かる。

ここにいても仕方ないと思ったクラウドは小さくチッと舌打ちすると、ユフィの腕を掴みそのまま歩き出した。

…あの時と、同じように。

「ちょっ、と…!」

「何」

「離してってば!」

「どうして」

「それ、は…」

あたしなんかに関わらないで。

もう、会わない方がいい。

そう言えばいいだけなのに

声に出せない。

あたしはクラウドに会いたくなかった?

…違う。

“会いたかった”んだ。

一ヶ月前と同じ、この手の温もりを感じたかった。

(………馬鹿…)

その後、ユフィはクラウドの手を振りほどく事はなかった。




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