リクエスト小説
□信じる思い
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「ルークはもう休んだか?」
宿屋の一室。
ルークの部屋として借りたそこの扉を静かに閉めると、廊下にはユーリが立っていた。
「ああ。記憶の混乱は変わらないが、少し落ち着いた。」
食事の方も、全部では無いものの、スープやパンといった口にしやすいものは食べてくれた。
あとはゆっくり身体を休めて、心身を回復させていけばいいと思う。
これからの事を考えるのは、その後でも構わないというのは、パーティメンバー一同の合致した意見だった。
「それ、俺が片付けといてやるよ。お前ももう休め。酷ぇ顔してるぞ。」
苦笑混じりにユーリにそう言われ、ガイは目を丸くして答えた。
「そうか…?自分では、よく分からないんだが。」
「ああ、男前が台無しだぜ。」
皮肉げに言われながら、手にしていた食器を乗せたトレイをひょいと持っていかれる。
「おい、ユーリ?」
「いーから、さっさと寝ろよ。」
そう言い放ちながら、踵を返すとユーリは背中越しに手を振ると、そのまま立ち去っていった。
さりげなく気遣われた事に苦笑を浮かべながら、ガイは肩を落とすと自分の部屋へと歩を進めた。
明かりをつける気にもなれず、薄暗い部屋を闊歩しながらガイは疲れた身体を投げ出すようにしてベッドに倒れ込んだ。
そのまま腕で目元を押さえる。
この僅かな数日で色々な事が起こり過ぎた。
こんな風に力を抜くのは久しぶりのような気がする。
―――ルークの記憶については、未だ何ともいえない。
戻るに越した事はないと思うが、戻らない時の事もやはり考えてしまう。
身勝手な感傷だとは理解しているが、忘れられるというのは寂しいものだ。
それは他の皆も同じだろう。
ルークとの思い出が深いほど、彼の中からその存在が消えるというのは悲しい。
だが、もしそれと引き換えに前の旅で負った癒えぬ傷痕が癒されるのならば、それもまた良いと感じてしまうのも確かだ。
「(………信じていいのか分からない、か)」
信じられるものがない、というのは不安で苦しい事だ。
誰も彼もを信じれば、それは別の危うさを孕む事になるが、誰も信じられなければ人はやがて自滅してしまう。
「(……そういえば、俺も前の旅ではアッシュに対して特に猜疑心を抱いていたな……)」
真っ暗な天井を見上げながら、あの時を思う。
アッシュとの関係性は、昔も此処に来る前も複雑なままだ。
特に前の旅をしていた時は、ガイ自身自らの内に巣食う復讐心に完全な決着をつけられていなかった。
それを半端に引きずったまま、アッシュを懐疑的な目で見る事も少なくなかった。
『信用できない』と、はっきり告げた事もあった。
……それをアッシュは、どう思ったのだろうか。
最後の戦いにおいても、一人で奔走し続けた彼は自分がぶつけた言葉にどんな思いを抱いたのだろう。
それを今更ながらに考える。
ルークの言葉が、思った以上に堪えたのだろうか。
「(我ながら、女々しいな……)」
口元を歪めながら自嘲する。
前の旅から三年経ち、そしてルークに再会できた事によってようやく傷つけた相手の事を考えるなど、虫がいいにも程がある。
自分の言葉だけがアッシュを傷つけた、などと自惚れてはいない。
そこまで自分が他人に影響を与える人間だとも思えない。