小説 2

□募る想いの告白
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エステルのおかげで傷もすっかり塞がったガイの容態は、ユーリが手渡した薬も相まって確実に善くなっていくだろうと、騎士達は表情を明るくして言った。

熱が下がれば意識もやがて安定し始めると話していた彼らの見解と腕を信じ、一同は疲労困憊のエステルを休ませる事について手短に話し合った。






「エステルには、あたし達もついてるから大丈夫よ。」






「ええ、だから貴方はまずルークの様子を見に行ってはどう?」







エステルの付き添いについて話す中、リタの言葉を引き継いだジュディスがふと、ユーリに向けてそんな事を口にしてきた。


テントの組み立てをすべく、カロルとレイヴンがフレンからその道具一式を受け取る為、共に駐在所に向かった後――残された女性陣の様子を見ながらもルークの事について考えを巡らせていたユーリにとって、今ジュディスが口にした一言は、こちらを見透かすような含みが殊更に強く感じられた。







「……そうだな。後の事、頼めるか?」






「勿論よ。」








即答してくるジュディスに苦笑しながら、ユーリは踵を返しかけたが、そこでフレンがカロルやレイヴン共々こちらに戻ってくる姿が見え、足を止めた。



フレンにルークの事を話せば、彼は途端に表情を強ばらせ、頷いた。


手短に話す会話の中から察するに、エステルの助力によってガイの容態が安定したのを見届けた後、フレン自身も早々にルークの事についてユーリに話をするつもりだったようだ。







「……まずはガイの事を優先しなければと思って、直ぐ君に言う事が出来なかった。すまない。」






「謝るような事じゃねえだろ。ガイの方は状態が切羽詰まってたんだし、お前の判断は正しいと思うぜ。」







フレンの判断を肯定すれば、彼は益々表情を悲哀に歪め、沈痛な声で言う。








「ルークの精神状態も考慮して、彼をガイの傍に置く事はなるべく避けたんだが……それでも酷く衰弱してしまっている。食事も睡眠もまともに摂れてないんだ。眠れば悪夢に苛まれて飛び起きるばかりだし、食事はかろうじて水を飲む程度に過ぎない。……ガイはこれ以上大事には至らないと思うけど、ルークは……どうなってしまうのか……」







悪い予感ばかりがする、と沈んだ声でそう言い、フレンは目を伏せた。

ルークの事に関しては、音素乖離の件も看過出来ない現状に加えて、疲弊しきった精神状態も無視出来ない。
まさしく心身共に追い詰められている。


その事実を苦々しい気持ちで受け止めながら、ユーリは眉を寄せて黙した。
足元では同行する意思を見せたラピードが、ユーリとフレンの歩く速度に合わせて付き添うが、彼もまた沈黙を保ったまま両者の様子を窺っていた。








「とにかく、ルークをこのままにしておくのは忍びない。君が戻って来てくれてホッとしてるよ。」






「何言ってんだ。俺らがいない間、あいつの傍に付き添ってたのはお前だろ?」







ルークを支えようと尽力してくれたのは、フレンも同じだ。
しかし、ユーリの言葉に対し、フレン自身は首を横に振った。






「……君にしか出来ない事がある。とても残念だけど、それは僕には出来ない事なんだ。」






「………………。」







きっぱりと言い切るフレンに、否定の言葉は返せなかった。

きっと彼が口にしたそれは、ユーリがガイに対して感じた気持ちが含まれていると察したからこそ。


その想いに謙遜の台詞を返すのは、逆にフレンに対する侮辱にも繋がると感じ、結局無言を押し通したまま、ユーリは沈黙を持ってフレンの考えを受け入れた。
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