小説
□再会
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もう二度と会うことは無いと思っていた。
実際、別世界という距離で隔てられてしまったのだから、会えるとしたらそれは自分の夢の中だけだと。
――――だが。
「無事か?ルーク。」
靡く金の髪はフレンとはまた違った輝きを放っていて。
目の前に立つ青年を呆然と見つめながら、ルークは身体から力が抜けそうになるのを必死でこらえた。
◇◇◇
「あーもう、ウザい!次から次へと!さっさと結界魔導器を見なきゃなんないのに!」
ダングレストの結界が消えた原因を探るべく、結界魔導器が設置された場所へと向かう最中にも、魔物の追撃の手は止まない。
それに苛立ちを露にしながら、リタの放ったファイヤーボールが凄まじい勢いで飛んでいく。
「頼もしい限りだな。」
「ユーリっ、そんな呑気に言ってる場合じゃないよ!」
「てか、本当にキリがねぇぞっ」
言い様にローレライの剣――この世界に来たとき何故か持っていたそれを振り下ろし、ルークは襲いかかってきたビートルを斬り捨てた。
魔物単体の力は、今のルークにとってさほど脅威では無いものの、数で攻められる事に加えて街の住人を守りながらというのは中々キツい。
一匹倒すのにまごついたら、その分仲間の方にしわ寄せが来てしまう。殺し自体を忌避する気持ちは変わらないが、今は他に優先するべきものが多すぎる。
「此処は俺たちに任せて、早く避難してください!」
背後で庇う母子にそう叫ぶ。
「は、はい!」
ルークの言葉に反応したらしく、一瞬呆然としていた母子は俯いた顔を上げるなり足早にその場から退避した。
遠ざかる足音に、ほっと息をついたのも束の間。
「ルーク!危ないです!」
エステルの、悲鳴に近い警告の声が届く。
視界の隅で焦燥を露に、リタが再度攻撃魔術を唱えるものの、間に合わないのは明らかだった。
カロルの蒼白に染まった顔や、エステルが必死で走り寄ろうとする姿が見えた。
それを制止して、珍しく狼狽を浮かべた表情で剣を片手に、こちらに加勢しようとユーリが駆け寄ってくる。
ああ、だめだユーリ。
そっちにはリタやエステルがいるから、カロルと一緒に援護しないと。
そんな事を思いながら、眼前に迫るバジリスクの鋭い牙を見据える。
とっさにローレライの剣を肩よりも高く掲げ、追撃に備えようとした。
だが、次に訪れる衝撃は両腕に伝わって来なかった。
代わりに、鋭い斬撃の音と同時にバジリスクの奇声が耳を突く。
「え…………」
口から零れ出たのは、酷く間抜けな声。
恐らくアッシュが聞けば、不機嫌そうに眉間の皺を寄せて睨んでくるに違いない。
だがルークの目の前に背中を向けて立っているのは。
「無事か?ルーク。」
それこそアッシュ同様に、もう二度と会えないはずのかつての仲間で。
自分が生まれた時から傍に居てくれた、大切な幼なじみだった。
「…………ガイ……………?」
………幻だと言われたら、きっと泣いてしまう。
そんな情けない思いを抱きながらも、久しく口にしていないその名を呼んだ。
「ああ、久しぶりだな。」
記憶の中で色褪せない、優しい面差しはそのままに、彼は微笑んだ。
――幻だと思った姿は、消えなかった。