リクエスト小説
□交わる願い
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視界の先に佇む人影に、ルークは思わず言葉を失った。
特徴的な紅の長い髪は、忘れる筈もない。
「アッシュ……?」
――――フェローが作った“幻の綻び”と呼ばれる次元の穴の向こうにある、ヨームゲンの街。
住人が誰もいない、まるで伽藍洞のような幻の中、ルークが良く知る人の姿が在った。
それを見て、有り得ないと感じた。
もう逢う事など叶わないと、嫌でも思い知っている。
だというのに、其処に居る彼の姿は不確かな幻とは真逆の、鮮烈な輪郭を帯びていた。
此処にガイがいたら、どう思うだろう。
次元の穴を越えた先で、はぐれてしまった彼の事を考える。
正確にはガイだけでなく、ユーリ達とも引き離されてしまい、この無人の街にはルークと――そして目の前の彼だけが存在していた。
紅の髪が靡くと同時に、彼が振り返る。
次の瞬間、視線が重なりあった。
思わず息が詰まる。
単なる幻だと言い聞かせてみても、目頭が熱くなるのはどうにも止められない。
内心焦るルークとは裏腹に、視界の向こうにいるアッシュは、こちらを見るなり―――何故か思い切り眉を吊り上げた。
あ、やばい。怖い。
以前の旅で散々彼に怒鳴られていた手前、ああいう眼差しを向けられると途端に身体が萎縮する。
足早に歩み寄って来るアッシュに、おろおろと慌てながらルークは考えた。
いやまて、あいつは幻覚なんじゃないか?
しかも俺の願望が作った、とかだったら笑えねぇ。
何処まで未練がましいんだよ。
それにしてもアッシュの奴、俺の記憶の中に居る姿とは違う服装してんな。
前髪下ろしてるし、教団服じゃなくて貴族階級が着るような、ええと父上や将軍達が着ていたやつと少し似ている―――――
「遅ぇんだよっこの屑が!!」
「うわ懐かしいー。じゃなかった。アッシュ、人に向かって屑呼ばわりは失礼だぞ。お前そんなんでキムラスカの王位継承者やっていけんのか――」
「どの口がそれを言いやがるっ!!人に記憶を押し付けるなり、さっさと音譜帯に逝ったやつが!!」
言い様、いきなり頬を思い切りつねられた。
恨まれている。
かなり根に持たれているぞ、これは。