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森のフォーラム

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Re:短編小説
りお
[ID:bell4724]
多分四回目です。
最近盛り上がっていてとても楽しい…。
暗くて嫌な話注意。
………………


愛してほしかった。

「僕は、本当にそれだけだったんです」


少年は訴える。
淡々と、だけれども切実に。しかしそれは口調の話だけであって、彼の表情は間違いなく無であった。
悲しみ、喜び、怒り。少しの戸惑いでさえも見出だせないそれに、ぞわぞわと何かが背を駆けてゆく。

「愛してほしかっただけ、だと?」
「そうなんです。僕は、純粋に愛がほしかった。誰かの愛情を感じたかっただけなんです」
「それが動機なのね」
「ええ」

少年は、顔を上げない。
何かを探すように、けれどピントの合わない視線を、ただ足元へ落とす。
思考を働かせているのか、それすら分かり得ない。質問に対して、用意された回答を機械的に返しているだけに思えた。

「被害者があの人でなければならなかった理由は、あるのでしょう?」
「ないことは、ありませんが」
「教えてちょうだい」

くいと持ち上げられる口の端。
初めて見た笑顔は、息を呑むほどに美しかった。そしてようやく合った視線は、逃亡をはかりたくなるほどに冷え切っていた。

「幸せそうだったから。笑って、手繋いで。自分の死なんて考えもしないで、呑気に、迂闊に、歩いて」
幸せそうだったから。

滲み出るこれは、憎悪だろうか。
彼の怒りは水のようだ。静かに音も立てず、こぷこぷと溢れ出る水のようだ。ゆっくりと空間を満たしていく、水のように柔軟で冷たく鋭い怒りだ。
彼は、子犬が泣くように笑う。


沈黙の溜まった部屋に、時間切れのチャイムが鳴る。彼の話を聞けるのはこれまでだ。あとは繰り越し。
けれど、きっともう新しいことは掴めないだろう。今日聞いたことが全てだ。彼が人の命を奪った全ての理由は、今日語られた。
これが十で、もう一片も絞り出せない。

「ねえ」

両サイドから屈強な男に挟まれ、少年は情けない声を出す。年相応の、儚く弱い音だった。

「僕の母さんは、泣いていましたか」

目を閉じる。
確かに泣いていた。白く細い頬に涙の筋をいくつも残し、いかにも哀れに泣いていた。

「ええ、泣いていた。ずっとね」
「そうですか、よかった」

ほっと息を吐く姿は、痛々しい。が、本人の表情は安らかだ。
寒さから逃れたような、探し物を見付けたような、そんな表情。

「母さんは、僕を愛していたんだ」



彼はきっと、分かっているのだろう。
彼の母が、彼のために涙を流したのではないこと。彼への愛故に、苦しんでいるのではないことを。
涙の理由は彼であるが、そこに愛情は存在しない。
息子が殺人を犯し、それにより彼を虐待していたことが世間にばれ。
これからの人生に絶望したがための涙なのだろう。彼女の涙には、苛立ちと苦悩と。
あと、愛情。
そんな運命を背負ってしまった、自分への愛情。息子により生涯をめちゃくちゃにされた、自分への強い強い愛情のみ。


愛してほしかった。

彼は言った。
愛されていないことを知った上での、告白だった。
それでも愛を夢想して、最後の最後まで自らを守ろうとした。
そんな、ある事件の話。



………………
暗くてすみません。
事情聴取の様子。
ある本に、どれだけ傷付けられても子供は親を裏切れないとあり、思わず。

お粗末様でした!

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