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森のフォーラム

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Re:短編小説
真祇
[ID:aonisukuhana]
『般若』


「何見てるんだ?」
ある展示コーナーの前でじっと動かない友人に声をかけた。
平日の博物館はひどく空いていて、周囲に人影はなくガランとしていた。
「うん? アレ」
友人が指差す方を見れば、ずらりと並べられたお面の数々。これだけ沢山あると少し気味が悪かった。
彼が差しているのはその中でも一際異彩を放つ一枚の面。

般若の面。

「……………アレ?」
「そう。アレ」
「………なんで?」
話している間も友人は此方を見ない。じっと般若の面を見ている。
熱心に般若の面を観察する小学生って、あんまりいないんじゃないだろうか。
「むかしから思っていたのだけど」
彼はゆっくりと瞬きをした。視線はそのままだ。
「みんな『怖い』っていうじゃない? でも、僕にはそうは思えなくって」
「……お前は、怖くないのか?」
彼がはじめてこちらを見た。澄んだ目が俺を映す。
「うん。………だってずっと」
けれどそれは数秒の事で、彼は再び面の方へ顔を向けた。


「泣いてるみたいに、見えるんだ」


「泣いて………?」
「うん。辛くて、悲しくて、大声で泣いてるみたい」
彼と同じように面を見上げる。
「……ほんとだ」
下がった目尻、大きく開いた口は叫んでいるようで、確に泣いているようにも見えた。
「いつも思うんだ。何がそんなに悲しかったのかなって」
鬼になってしまうほど。
そう聞こえた気がした。



それから一ヶ月程後、彼はいなくなった。この世界の何処にも。
母親に殺された。無理心中だった。
『いつも思うんだ。何がそんなに悲しかったのかなって』
彼の言葉が耳に蘇る。

……彼の目には、自分の母親がどう映っていたのだろうか。
『泣いて』いたのは、誰だったのか。


今でも考える。あの日、彼は俺に何を伝えようとしていたのか。
「………………今更、考えても仕方がないか…」
平日の博物館、彼がいた場所。
今は、俺独りで。

顔を上げる。
般若は今日も、泣いていた。



長々とすみません。失礼しました。

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