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268件のレスが見つかりました
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投稿者 親記事
[記事No.326462]短編小説

まなか
ID:[shiroikotori]
PC
投稿日時:04/03 19:27

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 ま、間違って短編小説スレッドを削除してしまいました……!!
 本当に本当に申し訳ない。消してしまった作品の作者様にお詫び申し上げます。

 また作りますので、また投稿していただけると嬉しいです。すみませんでした。

 一つのレスに収まる長さの短編小説を書きましょう。
 投稿は何度でも大歓迎です。連続投稿も可能。気が向いた時に参加してください。
 スレ主も頻繁に出現します。

投稿者 スレッド
[記事No.326463]Re:短編小説

まなか
ID:[shiroikotori]
PC
投稿日時:04/03 19:27

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記事No.326462への返信
  "樹海の花"


 暗い、所だ。こんなに暗いとは思わなかった。電灯の一本さえ立たず、陽の光の一条さえ射さない。予想はしていたけれど、実際身を置いてみると戸惑う。
 木の幹に手を置き、恐る恐る、けどできるだけ速く足を進める。跫音を組成するのは、木屑や砂利、腐葉土を踏むそれぞれの鳴り。そこに、バキリと硬質な音がまじった。何かを踏み砕いた感触。木の枝とは違う。
 娘は一瞬身を凍らせた。そのあとだっと走りだす。二度ほど躓き、転倒しかけた。
 あれはなんだったのか……考えるな。考えてはいけない。暫くして、わずかに震えつつ歩調を緩める。こんな事で怖がって馬鹿みたいだと思ったが、自嘲する余裕はなかった。
 暗い。空が濃き深き青に染む日暮れ頃に森に入ったが、厚い枝葉に遮られ、ここはまるで子夜だった。しかし目が慣れてきたのか、木の幹に激突する事はもうない。
 その時、すぐ右の視界に異物を捉え、彼女は顔を強張らせた。しかし今度は足を止めない。高みからぶらんと吊り下がるそれから目を逸らし、そこを過ぎ去る。
 何かを蹴った。木の根元に座り込む動かぬ物を見た。数多の棒状の塊が散らばる場を抜けた。物の腐る嫌な臭い。食い荒らされた何か。
 嫌だ。怖い。死ねない、こんな所では死にたくない。手の瓶を固く握る。仲間と一緒になんて気持ちはいだけない。あれはただの残滓だ。
 もっと、もっと奥へ。誰もいない所へ――。
 そしてどれだけ歩き続けたのか。
 闇は深まり、もう目は見えない。
 疲れた。もう、ここでいいんじゃないだろうか。
 安堵と恐怖が綯い交ぜになった心で、木の根元に座り込む。硬い樹幹はしっかりと背を受け止めてくれた。不思議なほど安らいで、力を抜く。
 闇への恐怖はもうほとんど消えていた。どうでもよかった。疲れていた。両足も、精神も。
 すぐに終わらせる気が起きなくて、ぼうっとそこに座り込む。恐怖と入れ替わり、どうしようもなく虚しい気持ちが起こった。
 不意に光が射した。闇の染み込んだ目には、眩すぎる光。
 星だ。偶然、真上の枝葉が空けて、雲からのぞいた星光が差し込んでいた。闇夜の中に光が輝く。
 何故か涙が溢れてきた。誰かに憚る必要もなかった。
 気付くと、すぐ傍に一輪の小さな花が咲いていた。いや、一輪ではない。そこにも、あそこにも、沢山。
 これは餞だろうか。樹海が、最期に見送ってくれるものをくれた。
 涙が流れる。
 親に見離され、友人に突き放され、恋人に裏切られ、神に捨てられた私を、まだ哀れんでくれるのだろうか。
 ずっと握り締めていた薬瓶を目の前に掲げた。純白の薬剤が鈍く光る。
 星が再び、雲に隠れてしまわぬ内に。
 娘は、薬を大量に呷った。
 涙が止まらなかった。寂しくて切ない。けれど、ここでなら眠れる。
 誰が手向けてくれずとも、立ち会ったこの花々が、そのまま供花になってくれるだろうから。
[記事No.326465]Re:短編小説

せれん
ID:[seiren329]
PC
投稿日時:04/03 19:49

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記事No.326462への返信

目を開けた途端、私はびっくりした。
いきなり、空が落ちてきたのだ。
反射的に瞳を瞑ると、喉の奥が閉まる感じがした。
息が、苦しい。
目を瞑った口を開けて酸素を取り込もうとしても、息苦しさは変わらない。

何があったんだろう恐る恐る瞳を開けてみると、海底に居るような景色が目に広がった。まるで、水の中から太陽を見上げてるような感じだ。
そこで私は、やっと気づいた。
空と海が反転したのだ。案の定、確かめようと首を横に曲げてみると、
くすんだ青と白い綿飴が見えた。

どうしよう。
下は空。上は海。家が無い。草木も無い。
このまま横たわっているのもどうかと思って起き上がる。
その瞬間、足の下からあぶくが浮かんで、今は空である海へと上がっていった。
それがあんまり綺麗で神秘的だから、足踏みをしてあぶくを作り、
またそれが上がっていくのを、顔を上下に動かして見ていた。

それらの動作をしばらく繰り返していたけれど、そろそろ飽きてしまい、ここら一帯を探索する事にした。
今は地面である空を足が突っつくその度その度、大小様々なあぶくが出来て、また、今は空である海へと上がっていく。
ここから見る太陽の光は、水面に反射してとても綺麗だった。
まるで、人魚のよう。もしかしたら、人魚もこんな風景が好きで、
ずっと海に居るのかもしれない。

ゆっくりと空が揺れる。海のように。
ゆっくりと空の雲が動く。海の中の生き物のように。

その生き物を見ながら歩いていると、人の気配がした。
思わず顔を上げて見ると、黒衣に包まれた彼が居る。
きょとんとして見ていると、彼がゆっくりと手を差し出した。
その手に、まるでつられたように己の手を重ねる。

息苦しさは、消えていた。



***
あらら、削除してしまわれたのですか。
でも、お気になさらず。誰にでもある事です。
再度この場を設けてくださった事に感謝を捧げます。
[記事No.326515]Re:短編小説

りお
ID:[bell4724]
SH905i
投稿日時:04/04 00:26

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記事No.326462への返信
二度目です!
見付からないと思ったらそういうことでしたか
再度立てて下さってありがとうございます!
………………

『机を空に』


「字ががたがたになっちゃうの」

困ったように眉を下げ、友人はそう言った。
ぴらりと見せられたプリントは確かに線が曲がりくねり、所々に穴があいている。正直なところ、かなり見づらい。

「……こんなに字下手だったっけ」
「そんな訳ないでしょう。私じゃなくて、机が問題なんだよね」
「つくえ……」

何気なく手をついていた机に視線を落とす。
ぱっと見た感じでは、何ら他のものと変わりはない。少し塗装がはげ、古臭さが滲み出ていることくらいだろうか。
思わず唇を尖らせる。

「別に普通じゃない。何が問題なの」
「よく見てみてよ。細かい穴があるから」

声に誘われるように顔を近付け、目をこらす。
点々と付けられた直径一ミリ程度の黒は、確かに穴のようである。なるほど、これに針が突っ掛かって紙に奇妙な模様が出来てしまうのか。

「下敷きを敷かないと字書けなくて。しかも全体に広がってるのよ、これ。何の意味があるのかも分からないし。……換えてもらおうかな」
「ああ、うん。でも、暗号とかかもよ」

穴、といえば点字の可能性がある。しかし、てんでばらばらに散らばっているそれでは、文字を表現は出来まい。
いくつか穴の固まったグループがあるようだが、特に見覚えは……。

「あ」

腕を組んでうんうん唸っていた友人が、ふいに間の抜けた声を上げた。
ぱかりと開かれた口が、正体を音に出す。

「星座だよ、これ。夜空なんだ」

悩内に、小学校のときに貰った星座表が浮かんだ。星の名前は覚えていないけれど、ああ、冬の夜空だ。
机上に並んだ星々は、大小様々なその身を固い木へと投げ出している。光の届かぬ闇の中ではないにしても、黒の体が光って見えるのは気のせいだろうか。

「ねえ」
「うん」
「机さ、換えてもらうのやめなよ」
「うん、そうだね」

その日、私たちは小さな宇宙を手に入れた。


………………
お粗末様です!
今回はほのぼのでっ
机に穴や切り傷があると書きづらいんですよね…

ありがとうございました!
[記事No.327352]Re:短編小説

真祇
 .06F0pSY
ID:[aonisukuhana]
PC
投稿日時:04/09 18:49

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記事No.326462への返信

『瑠璃色の夏の日に』


 夕食後にテレビを見ていると、不意に鳴り響いた電話が、彼女の訃報を知らせた。
 何を言われたのか、わからなかった。
 ただ、テレビの中でなにやら騒いでいる芸人の姿が、ゲラゲラとうるさく響く誰かの笑い声が、ひどく滑稽だと思った。


 通夜が済み、告別式が終わっても、僕は泣かなかった。

 その翌日から、僕は僕の『日常』に戻っていた。
 自分の中に出来た大きな欠落には、気付かない振りをした。




 いつもと同じ時間が過ぎてゆく。
 ただ、君がいないというだけで。

 それ以外は、以前となんら変わらずに。
 静かに時が移ろうてゆく。


 だから、
 もしかしたら、と、期待してしまう。
 君はまだ、この世に在るのではないかと。
 ただ少しの間、ふざけて隠れているだけで、そのうちひょっこりと、何事も無かったかのようにまた僕の傍で笑っていてくれるのではないかと。
 無意識に、君を探した。
 何度も、

 何度も。


 けれど、たった一箇所だけ、探せないでいる場所があった。
 はじめて君と出会った場所。
 僕らだけの秘密の空間。
 僕と君との特等席。
 それは、
 神社の石段の中ごろで脇に延びる獣道に入り、進んだ先にある、ほんの少し開けた場所。
 僕らが見つけた、誰も知らないその場所で、

 春にはお花見をして、
 夏には花火を見て、
 秋には紅葉狩りをして、
 冬には雪だるまを作った。

 ずっと一緒だった。春も夏も秋も冬も、ずっと。
 この場所には、君との思い出が多すぎた。

 だから、探せなかった。探すことが怖かった。
 もし、君が此処にもいなかったら、


 僕は一体、何所を探せばいい…?


 それでも、僕は君を探さずにいることなど出来なくて。
 とうとう、この場所に来てしまった。
 走って来た所為か荒い呼吸のまま、君の名を呼ぶ。

「ルカぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!!!」

 何度も、何度でも。
 何度だって、呼ぶから。

 ルカ
 ルカ

 ……瑠夏


 僕を、呼んで。

 そうすればきっと、

 きっと飛んでゆくから。




『      』




 誰かに、呼ばれた気がした。
 泣きたい程に懐かしく、愛しい声だった。
 ふっ、と振り返る。柔らかな風が吹いて、くるぶしまでの長さの下草がさらさらと揺れた。

 夕日の光に赤く色付く世界に、けれど誰もいなかった。

 風が吹いて、木陰が揺れ、光が踊った。
 空は赤から群青色へとグラデーションがかかり、雲が夕日の赤に染まっていた。

 この光景が好きだと言った少女は、そこにはいなかった。

 僕ひとりだった。



「………ああ、そうか。………君はもういないのか……」

 ゆっくりと瞬き、高く澄んだ空を見上げた。


「さよなら、瑠夏」


 そうして僕は、誰よりも大切な少女に


 永遠の別れを告げた。






こんばんは。投稿は2回目…だったと思います。
また訳のわからない話で申し訳ありません。
[記事No.327504]Re:短編小説

亜修羅
ID:[asilyura40]
PC
投稿日時:04/11 12:52

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記事No.326462への返信


『君は  』

分かっていた…
分かっていたはずなんだ…
だけど…
僕は何一つ分かっていなかった…
彼女は寂しかったんだ…
僕は…
とても残酷に彼女は殺してしまった。

最期に彼女は『ありがとう』と言ったんだ。僕は酷い形で彼女を突き放したのに。分かってたんだ。彼女はもう長くは生きられないって…。

それなのに僕は…。
彼女はいきなり別れようと言った。その言葉が理解できなくて、僕は裏切り者と言ってしまった。彼女は、もう長くは生きられないから、もうすぐ死んでしまうから、その前に僕と別れようと言ったんだ。
その後に聞いた。彼女は病にかかっていた。もう治らない。もう生きれない。
気付けばよかった。けど、もう遅かった。
彼女はすでに…
最期の時に間に合ったのが幸いだったのかもしれない。その時に彼女は、僕に『ありがとう』と言ったんだ。僕はあんなに酷いことしたのに…。

僕は彼女のことが好きだった。彼女も僕のことが好きだった。
けれど、もう彼女はいない。
遅かったのだろうか…
僕の中から罪悪感は消えることはない。


君は…

    (END)

参加させていただきました。スイマセン。意味のわからない小説で…
いちおう悲恋物語です。
[記事No.327522]Re:短編小説

漆黒
ID:[haruhiko626]
F02A
投稿日時:04/11 15:29

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記事No.326462への返信
『いらない』

この世に、いらない物ってどれくらいあるんだろう?
何を基準にしていらないと思うんだろう?
何を基準にして必要と思うんだろう?
僕には何が必要で何がいらないんだろうね?
君には何が必要で何がいらないんだろうね?
自分の事もわからないんだから、君の事わかる訳ないよね、当たり前だよね?
でも、何でだろうね?
それはそれで、涙が出て来るよ
訳がわからない

何がいらないの?
何が必要なの?

でも、今わかったよ
やっと気付けた

僕には君が必要で
君にも僕が必要で
−−世界ニ僕ハイラナカッタ−−

「・・僕にも、世界何かいらないよ・・・」

そうだ
僕にもいらない
もういらない
何モイラナイ

−−夢ハモウ覚メナイ−−



はい、訳がわからない・・・
一応シリアスにしてみましたが・・・
訳わからん
スペース失礼しました
[記事No.327834]Re:短編小説

虎縞
ID:[tigerhalfowl]
W52P
投稿日時:04/15 14:30

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記事No.326462への返信
 毎日夕方と夜の真ん中あたりになると、貴方は学生を沢山引き連れて帰ってくる。私と猫達に挨拶をして、学生さんもそうして、リビングに置かれた貴方のお気に入りのソファに猫を膝に私とゆったり腰掛け、研究室でも終わらなかった話の続きを日がとっぷり暮れるまで続けた。研究の話である時もあれば、誰かの悪口を、先生である貴方も一緒に悪戯っぽい笑い声を交えながら楽しくした。貴方のパイプのと、学生さんの吸う煙草でリビングは煙で真っ白になりそうで、貴方が作った喫煙時は窓開放、とのルールをみんな守ってくれているのでそうはならなかった。
 この家に越してから、貴方は常々学生達に喧伝して回った。
「お前ら、そのうち子供作るからな。その時になったら我が家は喫煙禁止だ」
 ねぇ、貴方もその時にはパイプを止めると言うけれど。
 私は貴方が、学生さんがいなくなったリビングで、なおもリビングのソファに頬杖をつきながら、猫のお腹を撫でながらゆったり煙をくゆらせている瞬間の絵が、堪らなく好き。うとうと眠りに落ちて行きそうで、時々ハッと気が付いたように研究の為のメモを書き留めて。反対の手にはパイプ。膝に猫。貴方の頭の中に、貴方の愛する研究。なんて文学的情緒のある生活なんでしょう。けれど、変わらない瞬間など無いのだから。貴方が子供が好きな事は知っているから。
「アヤ、ほら」
 貴方が見せたのは、銀行の口座明細。前に私が、貯金がいっぱいになるまで子供は作らない、と言った。私の僅かな時間稼ぎは、本当に僅かで終わった。
 ねぇ、稚拙な私の時間稼ぎなんて、頭の良い貴方には事も無いのかしら。偉大な偉大な大教授の貴方には。
 世界に変わらない瞬間など無いけれど、私はまだ、貴方のパイプの煙を隣で見ていたい。
 けど、ねぇ、世界で一番素敵な貴方。貴方と私の子供は、どんなに素敵になるかしら。パイプをくゆらせている貴方の仕草より、どんなにか素敵になるのでしょう。
「言っちゃ何だが、良いのか?」
「ええ、約束ですから」
 ねぇ、貴方が子供が大好きだって知っているから。世界に変わらない瞬間なんて無いけれど、変わった後が最悪なんて保証も無いのでしょう。
 ねぇ、世界で一番素敵な貴方。変わった後にも、きっと貴方は、世界で一番素敵な瞬間を私に見せてくれるって信じてるから。
 きっとね。
[記事No.328514]Re:短編小説


 Sefs.k1I
ID:[kypikumin]
MA35
投稿日時:04/23 00:06

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記事No.326462への返信
自分の家から、徒歩十分ほど。そこに、あの湖はある。
しゃり、と、自分の草履が地面の雑草を踏む音だが聞こえる。

「ふぅ…」

湖のほとりまで降りると、異様な蒸し暑さも少しは和らいだように感じた。
墨を流したような漆黒に染まった夜空には、金色の満月がポッカリ浮かんでいて、

『瑠枝っ!』

あまりにも何も無いここは、彼女との記憶を、

『次、リンゴあめ食べたい!』

自らの頭に、
おもいだされて、
「蘭…」

つう、と涙が冷たく頬を伝ったのが分かった。

彼女は、何も悪くなかった、
死ぬことなんて、なかった、
あの満月の色と同じ、金色の瞳で、自分を見つめていて欲しかった。

まだ、覚えてる。
もう、十年以上前の事なのに。

不治の病に倒れた蘭は、どうしようもない母親のせいで、ろくに治療も受けないまま死んでしまった。


にくかった
にくかった
にくかった

ただただ、蘭が死んだのは、あの母親のせいだと、
だから、刀を振った。

覚えている。飛んだ血が、右頬に飛び散った事。覚えている。人の肉を、鋭利な刃物が切り裂く感覚。
この忌まわしい体全身が、"あの日"をしっかりと刻み込んでいるのだ。

「瑠枝〜?」

遠くから、姉の呼ぶ声が聞こえる。

あの人がいなくても、立ち上がらなくては、いけない。
あの人のいない毎日に、意味を見出さなくては、いけない。

前に、行かなくては
たとえ生き血で汚れていたとしても、

「あぁ!もう瑠枝ったらやっぱりここにいたんだ!」

こうやって、自分の存在に気付いてくれる人がいるのだから―


「はいはい、今行くよ」
瑠枝は、湖に付けていた足をあげ、来た道を歩いて帰っていった。

まだ、瑠枝が湖にいた証が、水面に波紋となって揺れていた。

end
[記事No.328522]Re:短編小説

優鷹
 tj3tuHcE
ID:[HelloSmile]
923SH
投稿日時:04/23 01:41

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記事No.326462への返信

部屋に朝日が入りこんで目が覚めた。
隣では僕の腕を枕にして彼女が寝ていて、小鳥達はコンサートの準備を始めていた。

じかに感じる体温は暖かく、不意に昨晩した行為を思い出す。



それに愛はあったのだろうか?



本能の囁くままに身体を貪る。
それを人は愛し合うと言うが、それは快楽主義の詭弁なのだ。

それでも愛してると囁き
深く強い快楽を求め
激しく『愛し合う』

「…ん、おはよう、もう起きてたの?」

そして、目が覚めた彼女に『愛してる』とくちづけを捧げる。

「私も愛してるわ」





そこに愛はあるのだろうか?








「もう一度しましょ?」

「追加料金で?」

彼女は笑った。

ここに愛はないのだ。






『春を売る女』
[記事No.328609]Re:短編小説

美里
ID:[want2love]
PC
投稿日時:04/23 22:46

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記事No.326462への返信
スレ消えててびっくりしたー(○д◎)
前に一度書いた者です。お久しぶりです。



小指に赤いネイルを塗って、少し満足げになった。
隣で南中した太陽に照らされ、転寝をする恋人の左手をとり、その小指も真っ赤に染める。
赤い糸とか、運命の相手だとか、そういう安穏としたものが信用できなくなってしまったご時世だから。

起きたらびっくりするかなあ、勝手に塗られて怒るかなあ?

マルボロとジッポを片手にとって、日当たりのいいベランダの外に出た。
窓を開けた音で目が覚めたらしい。一歩外に出た瞬間、声で制された。

「あれ、まだいたの?」

ソファーで小首をかしげる恋人はにっこり微笑んだ。その言葉も嫌味な要素は含まれているわけでもなく、本当に穏やかな人なんだなって思う。

「もう帰ったと思ってた」

お昼の主婦向けの番組を切る。目を合わせなかった一瞬で、意図を汲み取る。
繋ぐ言葉が思いつかなくて、煙草に火をつけた。

「帰るの、やめちゃった」
「キレイ」
「え?」

やっと返事を返せた、と思った途端見当違いの言葉が帰ってきて、口に煙草を運ぶ手が止まった。

「髪が凄いキラキラしてる・・・本当、もったいないくらい」
「髪だけ褒められても
「違うよ、私に・・・って、え?」

彼女は髪をかきあげようとした手をみて唖然とした。小指の悪戯に、ようやく気がついたみたいだ。
まだ長い煙草の火を消して、俺は室内に戻った。マルボロもジッポも投げ捨てて、また隣に座る。

不釣合いなんて、言わせない。苦しむときは、一緒に苦しむんだ。

「どうしたの?」

すぐに戻ってきた俺を不思議に思ったらしい。俺自身も少し不思議に思ったが。

唇を寄せて、小指を絡ませた。約束より少し大人の意味。


一番は選べないけど、愛しているんだ。




主人公浮気者設定(笑)
一番じゃないけど愛してる。そんな憂鬱で幸せな昼下がり。
[記事No.330426]Re:短編小説

虎縞
ID:[tigerhalfowl]
W52P
投稿日時:05/11 04:04

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記事No.326462への返信
「海って私、行った事が無いんです。お父さん、連れて行ってくれるって毎年言ってたのに、結局……」
「なら行こうか、今度」
「え?」
「来週から夏休みだ」
 貴方はこの間、黄色い薔薇をくれた。良い意味で、と。黄色い薔薇の花言葉は、“あなたを恋します”。私もですと返した時から、肝心な言葉を出すのは恥ずかしがる、私達の関係が、進み始めた。
 パスポートは持っていて、それならと貴方は直ぐに列車とホテルの手配を済ませた。学者さんて、旅行が多いのね。貴方があんまりに迷い無く済ませて来たから、うっかりすれば頼りなさそうな程細身の貴方がすごく、すごく。それから私の旅行鞄と服をたくさん、貴方は買ってくれました。大きな白い帽子は、夏の匂いがする。
 暑い街を抜け出して、列車は海へと。幾日も掛けて。
 寝台車の客室に掛けられた絵の話をしたわ。貴方は絵に詳しくて、私はそれがすごく嬉しかった。あんなに海に連れて行ってくれるって言ってたお父さんだって、こんなに絵の話は出来なかったでしょう。食堂車に生けられた花の花言葉を、貴方は何でも知っていたわ。私に花言葉を教えてくれたお母さんだって、こんなに花の事は知らなかったでしょう。
 大きな白い帽子を被って辿り着いた海は、どんな絵より、どんな彫刻より完全で美しかった。音が聞こえる。あんなに近いのに、遠鳴りのような海の声。
 この景色を、この音を、お父さんとお母さんは見た事が聞いた事があるのかしら。
 何の言葉も出なくて、たくさんの事を思って、思い出して、ただ打たれて、涙が出て来て、止まらなくなっていると、貴方が初めて、手を握ってくれた。貴方は黙ったままで、何の慰めも口にはしなかったけれど、それが優しかった。慰めは、私の想いをかき乱すだけだもの。
 明くる朝、海沿いを散策すると朝顔が咲いていた。
「朝顔のようだとは、言わないでくれ」
 朝顔の花言葉は、“儚い恋”。
「……貴方に今度あげるのは、黄色いヒヤシンスですよ」
「……黄色のヒヤシンス、か」
 ねぇ貴方、また手を握って。貴方の手は優しくて、でも私の方から握るのは恥ずかしくて。
 黄色いヒヤシンスの花言葉は、“あなたとなら幸せ”。ねぇ貴方、やっぱり言葉にするのは恥ずかしいけれど、貴方となら幸せ。
 きっと暑い街に帰っても。


前回投稿の二人、恋人未満?の頃の話でした。二人には花言葉で奥ゆかしく恋を伝えていて欲しいです。
[記事No.331263]Re:短編小説

影月
 xdSyziOE
ID:[dmwmresatosi]
HI3E
投稿日時:05/20 00:14

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記事No.326462への返信
「綺麗だね」
車椅子の彼女は夜空を見上げて呟いた。
「そうだな……」
しかしその夜空の中に浮かぶ地球は小さく、人間はさらにちっぽけだった。
「どうしてこんなに……何も出来ないんだろうな……」
彼女が顔を上げたのにも気付かなかった。
「こんなに無力で……大切な人が消えていくのに……俺は何も出来ない……」
不意に涙が込み上げてきた。
「心配ないよ」
彼女は俺の涙を拭ってくれた。
「ちゃんと気持ちは伝わってるから」
彼女は微笑んだ。
しかしかなり辛そうなのが手にとるようにわかった。
「でも、ちょっと寂しいかな……」
彼女の目尻に水滴が滲んだ。
それを今度は俺が拭ってあげた。
「ありがとう……」
しかし彼女の涙は止まらなかった。同時にすごく苦しそうだ……
「大丈夫か――」
突然の事に頭の回転が追いつかない。
彼女は俺と唇を重ねていた。
そして、俺の耳元でこう言った。

―――ごめんね……?

夜空の星は冷たく残酷に見えた。



参加させて頂きました。なんか滅茶苦茶な乱文になった気がします……

スペースありがとうございました。
[記事No.331279]Re:短編小説

夏子
ID:[578511b]
W54S
投稿日時:05/20 03:22

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記事No.326462への返信
久々の参加です^^


「(変な顔されないかな)」

特別近くも遠くもない、ななめふたつ前の席。わたしと君の関係にそっくりだからやんなっちゃう。

「(おはよ、って言いたいな…)」



帰り道に寄ったコンビニで、春の新色とやらを買ってちょっといい気になる。
ただでさえマニキュアは校則違反だから、こんな派手なピンクは付けられないけど。

家に帰ってこっそりと左の小指だけ春色に染めてみたら、思っていたよりもずっと良くて、なんだか無敵になれた気がした。

調子に乗って、お姉ちゃんのグロスを拝借して唇にデコレーションする。
駅前看板のかわいい女の子みたいにちょっと唇をつきだしてウインクしてみたけど、鏡に映ったのはわたしだったから、恥ずかしくなってグロスはすぐに落とした。



ななめふたつ前の彼は、わたしが昨日よりちょっとだけ春らしいことも知らずに、今日も友達と楽しそうに笑ってる。当たり前だけど。

突然に。
振り向いた彼と一瞬間、目があった。
心臓がぎゅうって締め付けられた。
締め付けられて小さくなってそのまま消えちゃうんじゃないかな!

でも彼はすぐに前を向いて友達とのお喋りに戻る。

小さくなった心臓は呼吸と一緒に少しずつ元の大きさに戻っていくけど、まだどきどきしてた。
誰にも気づかれないように、春に口づける。少し勇気づけられたけど、昨日みたいに無敵にはなれなかった。
まだおはようも言えてないのに。

すぐに、夏がくる。




スペースありがとうございました
[記事No.331472]Re:短編小説

真祇
 .06F0pSY
ID:[aonisukuhana]
WX310SA
投稿日時:05/22 10:28

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記事No.326462への返信
『いつかもう一度逢う日まで』


 道路の真ん中で立ちすくんでいた子供を突き飛ばしたのは、とっさだった。
 後の事なんて、考えてもいなかった。
 静かだった。音がなかった。
 近付いてくるトラックが、酷くゆっくりに見えた。
 ああ、わたし死んじゃうのかな。
 トラックにぶつかる。衝撃。
 それから、もう何も分からなくなった。



「…ぅぇ………ぇ〜ん…」
 ああ、泣いてる。ユキが泣いてる。
 側にいかなきゃ。泣き虫なあの子の側に。約束したのだから。『ずっと一緒にいる』って。
 夕暮れの赤い光。微かな冷たさを含んだ風。シャラシャラと鳴る木々のざわめき。足を撫でる下草の感触。絡めた小指から伝わる体温。ユキの笑顔。
 約束をした。一緒にいると、永遠に離れる事はないのだと、
 春も、
 夏も、
 秋も、
 冬も、
ずっと。
 側にいかなきゃ。なのにどうしてだろう。からだが動かない。
 ゆっくり目を開けると、泣いている小さな子供がみえた。わたしが突き飛ばした子供。ユキじゃない。
 ああそうか。わたしはトラックに跳ねられたんだ。
 わたしは、死んじゃうんだ。
 だってもう何も聞こえないの。何も見えないの。
 でも、わたし後悔はしてないわ。死ぬのは悲しいけれど、寂しいけれど、それだけはちゃんと、胸をはって言えるの。だから……
 ユキ…幸人。どうか、どうか悲しまないで。
 『ずっと一緒にいる』って約束したのに、守れなくってごめんなさい。
 わたしの躰が滅んでも、魂が空に消えても、心だけは離れずに、ずっとずっと側にいるわ。貴方の心に、寄り添っているわ。
 きっと、きっと永遠に。
 だからどうか、嘆かないで。強く強く生きてね。わたしの分まで、沢山のモノを見て、体験してね。わたしに出来ない事をしてね。
 いつか貴方がわたしの所へ来た時に、貴方が見て、聞いて、感じた沢山の事を教えてね。
 大丈夫。ほんの少しの間、お別れするだけだから。きっと10年も20年も、70年も80年も、あっというまよ。

 だから今は、さよなら、ね。




前回投稿作の女の子(ルカ)sideの話です。言われなきゃわかんねぇよ、な話ですみません(汗)
やっぱり一人称で書くのは苦手です……。
拙作ですが楽しんで頂ければ幸いです。
[記事No.331526]Re:短編小説

美里
ID:[want2love]
821SH
投稿日時:05/22 21:36

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記事No.326462への返信

『at dawn』

いつだったかの昼ドラの再放送を終えて、私は遠い目で天井に馳せた。白い壁紙が、バルコニーへ繋がる窓から注す夕日に染められる。
空の色に影響され変色した薄い雲が、あの人のタバコの煙を彷彿させて、目に染みた。
なんだか身体を動かす気も失せて、ソファーに頬を押し付けながら昼ドラを反すう。重力が更に増した。

いつもそう、あの人が帰ってこないと生きた心地がしない。
目を閉じれば、数日前の微笑み。瞼の裏の闇だけで生きていけたら、どれだけ楽だろうか。

空が色を移しながら夜を迎える。僅かに目頭を湿らせて、私は西日を濁らせる。
夜は私を現実に戻していくのかな。

目を閉じて、私は日没を受け入れようとした。あの人がまた来てくれる日まで眠っていたくて。



「起きてる…?」

愛しい声が響いて夢から覚めた。前髪を撫でるあの人の吐息…そして唇に点火。温度を取り戻した私、傍らにあの人。

「今日は家に帰るんじゃなかったの…?」

突然の訪問に、頭が回らない。本能的に戸惑いと涙を隠した。

私の立ち位置は『落ち着く逃げ道』だ。私から求めてはいけないし、求められたら笑顔で抱擁を受け止める。
それなのに、今日は無理そうだ。こんなにも愛おしい、こんなにも欲しい。

「そんな顔しないで」

滅多にないけど、私が情緒不安定になるとゆっくりと髪を撫でて瞳を覗き込む。今日はそれが耐えられなくて、私は自分から胸に顔を埋めた。呼吸法を間違えてしまえば窒息してしまいそうな状況に、どうしていつもこんなにタイミングよく来れるのだろう。

「寂しかった?いつも一人にしてごめんね」

その言葉の意味に「これからも」、が含まれているのを知ってるのに、私はやっぱり離れられないよ。

「ごめんなさい…」

「え?」

どうしたの、と覗き込もうと動く身体を制して、胸にしがみついた。泣いているのは悟られているけど、どうしてもそんな姿を見せてはいけない気がした。

「愛してるの…」


出会うのがもう少し早ければとか、1番になりたいとか言わないから。

太陽が完全に沈んで、夜を迎えた。照明一つついていないこの部屋で、見えるのは曖昧な境界線と沈黙色に彩られた雰囲気だけ。
呼吸音が聞けるだけでいい。欲張りはいけないとも自分に言い聞かせられる。

返事はいらない。だからお願い、この時間をこれからも、私から奪わないで…

戸惑う気配を感じながらも、それでもいいんだって笑った。
困惑の表情を見せながらも笑うのを見て、それが私がいる証拠なのだと、合理化してみせたから。


*fin*

ちょっと遠回りな話でした。
前回の女性サイドです。日付的には数日後。
長くて申し訳ないです。スペースありがとうございました。
[記事No.331601]Re:短編小説

まなか
ID:[shiroikotori]
PC
投稿日時:05/23 18:27

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記事No.326462への返信
 久々。また投稿があったことがとても嬉しいです。

 * * * * *

 よく笑う、太陽のような君。怒って泣いて、最後にはいつも泣き疲れ、僕のそばで眠っていた君。
 昔から甘すぎるとよく言われた。甘やかすだけじゃ愛じゃない。叱るのも愛、妹のためだと。
「お兄ちゃん、あの人がいじわるしたの」彼女は仏頂面で訴える。
 幼さが抜けない綺麗な顔に、ふわふわした天使みたいな髪。
 そうか、と僕は答える。
 妹は気が強いから、人とよく喧嘩する。他人が言うところでは傲慢、横暴、自己本位な少女。
「お兄ちゃんがなんとかしておくよ」いつもこう答えてしまう。
 前の相手は妹の学校から転校させた。その前の相手は人間不信で引き篭もりに。その前は少し手荒に脅させてもらって。その前は窓から落ちて今も病院。
 お前はおかしい、いなくなったほうが妹のためだとよく言われる。このままでは妹はろくな人間にならないだろうと。
 甘やかすだけが愛じゃない。悪いことをしたら叱る、それが愛。
 ああでも、そんなことは誰が決め付けたんだろう。
 まっとうな人間に育て上げることが愛なのだと、そんなのは衆論だ。
 思想は自由ではないか。
 これこそが、妹への僕の愛。
 さてしかし、困った。最近警察が僕への容疑を深めているという話なのだ。
 家の前に停まった白黒の車体を窓から見下ろしつつ、妹の髪を撫で、今回はどうやって切り抜けるか、考えを巡らせた。

 * * * * *

 シスコンが大好きです。病的なシスコンが好きです。いいよ、シスコン。マザコンは嫌だけど。
 いや中途半端なマザコンがよくないんだよな。お母さんが死んだら俺も死ぬ的なマザコンだったら好きです。

 私の嗜好は周囲の賛同を得られません。
[記事No.332641]Re:Re:短編小説

虎縞
ID:[tigerhalfowl]
W52P
投稿日時:06/03 03:01

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記事No.331601への返信
常連客として、主さまに応えてみます。と言うか、虎縞は病的な偏愛が好きなのです。とは言っても内容がヤバいので、まずかったら削除して下さい。

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

 姉が死んだのは、姉が二十一歳の時だった。俺は十三歳だった。世界が、真っ暗になった。
 姉は正しく俺の太陽だった。髪が長くて、肌が白くて、綺麗な姉ちゃんだと皆に誉められた。年が離れていたからいつも子供扱いされていたけど、その分俺の前では無防備で、俺はそんな姉の姿に暗い感情を覚えた。姉は、子供だと思っていた俺にそんな感情があるのだとは思いもしなかったろう。だが俺は感情を芽生えさせ、それは大きく育ち、行き場が無くなると先端から発露した。姉がいなくなった後も、姉の白い肌思い出す度、夜に密かに発露をした。
 姉は飛び降り自殺だった。華奢な姉の体が、見る影もなく歪んでいた。それすら糧に俺の暗い感情は発露を促した。
 やがて俺は二十一歳になり、姉と同じ大学に進んだ。
 俺は校舎の九階にある灰皿のもとに行った。
「助教授」
「お?や、司君」
 今でこそ奴は助教授になったが、姉が死んだ当時は一介の講師だった。姉は奴に振られたのを気に病んで死んだ。この喫煙所の窓からだ。
「今日、俺の姉ちゃんが死んだのと同じ日なんですよ」
「何だって?」
「姉ちゃんが死んだのが二十一年と三カ月と八日目。俺の人生が今日、二十一年と三カ月と八日目です」
「……運命的だね」
「……俺の姉ちゃん、七海って言うんですよ」
「へぇ」
「覚えありませんか?」
「……いいや」
 その答えに、カッと熱くなった。
 感触はよく覚えていない。のた打つのも止め、静かになったのにふと気が付いて、鞄に用意していた得物を、奴だったとおぼしき物が転がる床に投げ捨てた。
 俺は鞄から、もう一つ用意していた得物を取り出した。空の注射器だった。
 宙でそのピストンを引いた。俺は左手を握り締めて、青く浮いた血管に針を刺した。そのままゆっくりと、ピストンを押す。注射器を投げ捨て、俺は開いている窓から飛び出した。当然床など無く、引力に導かれるようにして落下した。
 姉の生きた時間を追い抜かすなど、俺には出来ない。姉が太陽なら、俺は月だ。月は太陽が無ければ、光を返す事も出来ないのだから。
[記事No.332793]Re:短編小説


ID:[19881212]
PC
投稿日時:06/05 21:00

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記事No.326462への返信
 繰り返し、音がする。
 何度も、何度も、何度も。
 乾いた盤面を叩く、指の旋律。無機質なもののはずなのに、それが立てる音はまるで生きているかのようだ。緩やかに続くかと思えば、時折乱雑になったり、急ぎ足で駆け抜けたりと音色を変える。
 不意に、音が止んだ。
 なんだか不思議な気分になって振り返れば、仕事を終えたらしい同僚が調度席を立つところだった。パソコン画面が、薄暗い室内を照らしている。
「なんだ、藤原。まだ残ってたんだ。」
黒髪短髪長身眼鏡の色男。
言い寄ってくる女は星の数。
同期入社の営業部チーフ、瀬木遼平(せきりょうへい)。
 今は白のワイシャツを腕まくりし、紺地のストライプのネクタイといういでたちだ。残業中のサラリーマン以外の何者でもないが、なぜだかその様すら絵になるのがむかついた。
 どんなにかっこ良くて、モテても、私にとっては仕事のライバルだから。
 好きになんてならない。
 心臓が早いのだって、疲れてるせいだし。
 顔が熱いのだって、冷房が足りないから。
 だから、社内に2人きりだって問題ない。
 私は、わざとパソコン画面に向き直ってキーボードを叩きながら答えた。
「明日までに仕上げないといけない企画書があるの。瀬木こそ、遅くまで働きすぎよ。今日は不特定多数の彼女とデートじゃないの?」
少しの嫌味を込めた言葉に、瀬木はまるで気にしないように答える。
「俺は悪くねぇよ。向こうが無理やりちょっかい掛けてくるんだ。断っても断ってもしつこくて困ってる。」
「ふーん…。」
わざと気のない返事をしてみせる。瀬木のことを狙ってる女の子が多いことなんて、みんなお互いにわかってる。競争率が激しければ激しいほど、女のモーションは熱くなるのだから仕方ない。ある意味、瀬木も被害者らしい。
「だから、仕事してんだよ。気が紛れるし。家帰っても、電話がうるさいだけだから…それより、藤原ソレ何の奴?」
瀬木は、私のパソコン画面を覗き込む。
な、なんか顔が近いんですけど。
「新しく設計する駅前ビルのテナント会議用。」
「クライアントは?」
「ラクリスコーポレーション。」
答えた私の顔をじっとみて、瀬木は言った。
「俺、こないだ此処と取引したから概略わかるし手伝うからさ…20分で片付けるぞ。」
「えっ…?」
突然言われて困惑する私の隣に、瀬木は椅子と書類を持ってきて腰掛ける。笑顔で片目を瞑って、
「だから、そのあと一杯付き合えよ。愚痴とか話そうぜ『部長』。」
そう言う瀬木に、私は半眼になって言った。
「上司にタメ口使う部下なんていないわよ。」
 鼓動が自然と早くなるのには、気づかぬ振りをして。

 夜は、まだ長い。









==============

何も決めずに書き始めたら、いつの間にかオフィスラヴになってしまいました…。つーか、主人公名前出てないし。一人称と三人称混ざってるし。謎な作品。
[記事No.332838]Re:短編小説

黒空
ID:[breaktyoko]
PC
投稿日時:06/06 15:05

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記事No.326462への返信
文書下手ですけど書きます

―――――
空は晴天だ。
けれど俺の心は例えて言うと闇か大雨って言える。
何で、こんな気持ちにならなくちゃいけないんだ。
こんなの望んでいない少なくとも俺だけは望んでいなかった。
俺の事を雪とか呼ぶ女が居なくなっただけなのに
何故、俺はこんな気持ちにならなくちゃいけないんだよ!
御前の事を苺と呼ぶ事もできない
だってさ俺の事、雪って呼ぶ苺は、もう居ないんだぜ?
この世には…もう、居ない。
何度も俺の名前は雪詩だと言っても俺を雪と呼ぶ奴は…もう。

「ったく何でも先走りすぎなんだよ、あいつは…。」

俺は小声で言いつつも横断歩道を渡った。
いつもは苺と一緒に渡ってたんだよな…あいつの荷物代りに持ってさ
楽しく話しながら渡ってたんだ。
これからは俺1人でしか渡らなければならない。
最愛の幼馴染でも初恋の奴でも彼女でもあった。
残念ながら俺の恋は叶ったけど一瞬にして散ってしまった。
俺は昔の事とか思い出しながらも渡って行った1人で。
思い出しつつ渡っていて車に気付かなかった。
車は猛スピードで俺の体に当たった。
俺の体に激痛が走りつつも宙に浮いている何か分らない感覚
過去の嫌な事とか悲しい事とか楽しかったこととか忘れてた事も
一気に思い出した。
これが笑えるよ嫌な事の方が多かった楽しい事よりさ。

…苺が居ない今、、もう生きてる意味なんか無い。
このまま寂しがり屋で臆病な苺の所に逝ってやるか。
微かに地上に自分が落ちた時の音が聞こえた。
もう痛いとかの感覚なんて無いか薄れたんだろ、きっと。
でもズキズキだか何か普通に痛いな…
俺は目を瞑り暗闇の中の光へと堕ちた。
その時、微かに…いや
はっきりとは言えないが雪の声が聞こえた。

「雪、大好き…また遊ぼうね。こっちでさ。」

――――――――――
HAPPY END書けませんorz
これは色んな意味でBAD ENDですね、はい。
では乱文失礼いたしました。
[記事No.332843]Re:短編小説

城平ろくむ
 RSyy8bFk
ID:[ranean]
W52H
投稿日時:06/06 17:44

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記事No.326462への返信

前のスレに投稿したものですが、再度投稿します




『岐路』


旅人が道を歩いている。
轍がかすかに残っているだけの道。両側には背の高さほどもある草がずっと生えていて、先がまったく見えない。

どれだけ歩いただろうか。
旅人は道からそれないよう、注意深く足元を見続けていた。
ふと目を上げると、汚らしい身なりの少女がひとり、旅人を見ていた。
「こんにちは」
少女は旅人に微笑みかける。その顔は薄汚れてはいたが、元は随分と可愛らしいように思えた。
「こんにちは。お嬢さんひとりかい?」
「えぇ。どちらに行くか迷ってて」
少女が指差す方を見ると、うっすらとだがどうやら道がふたつに分かれているらしかった。
「一緒に来た人はみんな、どちらかを選んで行ってしまったの。私がここにいる間にも、たくさんの人が行ってしまった…」
少女は今にも泣きそうになる。
「寂しいのかい?」
旅人が尋ねる。よく見ると、少女の後ろには、少女がここにしばらく滞在している事の証拠があった。
「違うと言えば嘘になるわ。あなたもすぐに行ってしまうのでしょう?」
少女に言われた旅人は悲しげに微笑む。
「進む事が僕の目的だからね。お嬢さんはどうしたいんだい?ひとりでずっとこんな場所にいられないだろう?」
旅人の言葉を聞いた少女は、ますますうつむいてしまう。
「どちらかの道を選んだとしても、きっと私は後悔してしまう。先にわかっているのだから、私には選べないの。だから…」
旅人は悲しげな微笑みに哀しみを混ぜて、少女を見つめる。
「僕は何も言わないよ。決めるのは全部、お嬢さん自身なのだから。明日、僕は右の道を進む事にする。それまでは一緒にいても良いかい?」
「はい!」
旅人の言葉に少女の目が輝いた。


次の日、旅人は少女に別れを告げてそこから旅立った。
「道の先が分かったら、いつか戻ってきて私に教えてください」
少女はそう言っていたけれど、旅人はきっと戻らないだろうと考えていた。
少女自身も、いつかはあの場所から旅立つだろう。


――道を進まなければ、人は死んだも同じなのだから。


・+・+・


また、できれば参加したいです
ありがとうございました

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